政治家と企業人は必ず「ずぶずぶ」なのか? 石破茂元大臣が実在を疑った建設会社社長と町長の「ちょっといい話」

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何らかの犠牲を払うしかない、と石破氏

■政治家と企業人の交際はNG?

 安倍総理と「腹心の友」とされる学園理事長との関係について、民進党など野党は「疑惑あり」と追及を続けている。政界と経済界、あるいは政治家と経営者の関係が伝えられる際には、このようにネガティブなニュアンスが含まれることが多い。

 もちろん、特定の人に不法に便宜を与えることは許されないだろうし、そこに金銭が絡んだりすれば大きな問題である。しかし、冷静に考えてみれば、政治家と企業あるいは企業人が交流を持つことは決して悪いことではない。むしろ「政治家仲間と役人、あとは労働組合としか付き合いません」という政治家がいたら、そちらのほうが問題だろう。

 政治家と企業人との関係はどのようにあるべきか。最近、「ポスト安倍」として名前が挙がることが増えた石破茂氏は、新著『日本列島創生論』の中で、地方創生担当大臣時代に知って感動したという、ある町の町長と建設会社社長にまつわるエピソードを紹介している(以下、同書と山内道雄著『離島発 生き残るための10の戦略』をもとに抜粋、引用)。

■町議のもとにやってきた社長

 地方創生のお手本となる地域の一つとして石破氏が取り上げているのは、島根県隠岐の島にある海士町。

 町長の山内道雄氏は、もともとはNTTの営業マンだったが、家庭の事情で里帰りをして海士町にUターンした人物だ。山内氏は、Uターンしてしばらくは、当時の町長から声をかけられて町の仕事を手伝っていたが、その後町議になる。

 山内氏が町議として2期目をつとめていた時に、町長が引退することになった。地元で後継者として目されていたのは、役場の助役だ。ここまではどこの地方でもよくある構図である。

 選挙前に山内氏のところに、地元の建設会社社長が訪ねてきた。てっきり件の助役を応援してくれ、という話かと思っていたところ、社長は意外なことを切り出した。山内氏に立候補してくれ、というのだ。

 山内氏は町議として普段から「町を変えなければだめだ」と主張していた。一方で、補助金による公共事業が建設会社にとっては大きな収入源である。いわば旧来のシステムの上に成り立っている建設業者にとっては、山内氏は決して歓迎できる存在ではなかったはず。

 その山内氏に出馬を勧めた社長の真意はいかなるものだったか。

 社長は、山内氏にこんな話をした。

「もう公共事業に頼る時代は終わった。あんたは民間企業での経験があるんだろう。これからは、行政も民間の感覚でやらないと、この島は生き残れない」

 だから、あんた、やってくれ、と社長は出馬要請をしたのだ。

 危機感を持っていたのは、この社長だけではなかったのだろう。普通ならば、元助役が通るほうが地方選挙では多いのだが、大差をつけて山内氏は当選を果たすこととなる。

 このエピソードについて、石破氏はこう解説する。

「当時、海士町の財政は危機的状況にありました。そのまま放っておけば、夕張市のような破綻を迎えることは目に見えていたのです。その意味では、建設会社社長の判断は合理的だとはいえます。しかし、いかに論理的に正しくても、そのような判断をして行動に移す人は滅多にいません」

 さて、こうして当選した山内町長は、画期的な政策を次々に実行していく。町長らの人件費をカットして、財政健全化を進めると共に、島外からの留学生を積極的に受け入れたり、さらには町主導で新しいビジネスにも投資をした。CASという特殊な冷凍技術を用いた水産物の加工、出荷を始めて成功を収めている。

 過疎の離島でありながら、他にも次々と新しいビジネスを生み出しているのだ。

総論賛成、各論反対

 こうしたエピソードから何を考えるべきか。石破氏はこう綴っている。

「私はもはや『中央へのおねだり』では地方は良くならないことを示していると考えています。あらゆる地方自治体が財政難に陥っています。行政の側はその打開策をいろいろと模索しています。しかし、なかなかうまくいきません。

『このままでは財政が破たんしてしまうから、何とかしましょう』

 という『総論』に反対する住民はいません。

 しかし、そのための具体策が出ると態度が変わるのです。

『バスの便数を減らしましょう』『鉄道をなくしましょう』と言うと、『それは困る』『許せない』と反対運動が起きます。もちろん、本当に地元の人にとって欠かせない足であれば、反対するのもわかります。ところが、猛反対している人のほとんどは、実際にはマイカーで移動していたりする。滅多に鉄道にも乗らず、不便なバスなんて利用もしていない。

『乗って残そう』という支援運動ならばわかるのですが、『乗らずに残そう』では、単なるわがまま、おねだりです。

 お金が有り余っているのならば、ある程度の無駄も許されるでしょう。でも、そうではない以上、何らかの犠牲を払うしかありません。もはやかつてのように、インフラを整備することはできません」

 このような「総論賛成、各論反対」が幅をきかせると、地方は先細りになるばかりだ、と石破氏は警鐘を鳴らしている。それだけに、「公共事業に頼らない」という海士町の社長のエピソードは、石破氏にとっても驚きだったようだ。「本当にそんな社長がいるのか」と疑わしく思い、のちに島を訪れた際に、ご本人に会ってようやく「実在」を確認したのだそうだ。

 こんな形の政治と民間の交流ならば、誰もが望ましく思うのではないだろうか。

デイリー新潮編集部

2017年5月26日掲載

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