「官僚は地方で汗を流せ」 石破大臣の号令に官僚とマスコミはどう立ちはだかったか

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■霞が関に居座る必要はない

初代地方創生大臣の在任中、文化庁は京都への移転が決まったが、これを実現するにあたっては、官僚からの猛烈な抵抗があったのだという

 間抜けな大臣やどうしようもない政務官の問題で、安倍内閣の危機感の無さや緩みを指摘する声が高まっているが、実は政治家と同様、官僚にも問題があることを忘れてはならない。

 たしかに防衛大臣の答弁は拙いものの、そもそも問題の発端は防衛省の体質にある。また、森友学園問題でも、財務省がきちんとした対応をしていればここまでの大きな話にはなっていなかっただろう。

 第2次安倍内閣誕生後、政治主導が進んだために忘れられがちだが、ほんの数年前までの政治のテーマは、いかに霞が関中心の国のあり方を脱するか、だったはずだ。

 こうした問題について、初代地方創生大臣として地方創生に取り組んできた石破茂氏は、新著『日本列島創生論』の中で、「官僚こそ地方で汗を流すべきだ」と訴えている。国は地方創生の一環として、企業に地方進出を促している、にもかかわらず当の省庁や政府機関が霞が関に居座っているのはおかしいのではないか、ということだ。

 石破氏は、単に組織を動かすのでは意味がなく、必然性が必要だとしたうえで、実際に移転が決まった文化庁の例を紹介している。在任中、文化庁は京都への移転が決まったが、これを実現するにあたっては、官僚からの猛烈な抵抗があったのだという。その経緯を同書をもとに見てみよう(以下、引用は『日本列島創生論』より)

■京都に文化庁を置く意味とは

「現場」から官僚組織が離れてしまっていることの弊害というものは、実際に様々なところであるのではないか、と私は考えていました

 そもそも文化庁を京都に置く意義はどこにあるか。石破氏はこう述べている。

「言うまでもなく、京都は日本でもっとも文化財が多い土地の一つです。日本の観光の中心地でもあります。霞が関のような無味乾燥な土地に建つビルの中で政策立案するのと、京都のような土地で四季を、歴史を感じながら頭を使うのとではおのずと結果が異なるのではないでしょうか」

 このような考えの背景には、農水大臣時代の経験もあったようだ。

「『現場』から官僚組織が離れてしまっていることの弊害というものは、実際に様々なところであるのではないか、と私は考えていました。農水省にしても、1次産業が存在していない霞が関だけで考えていては、どうしても空論になる恐れがあるように思います」

■引っ越しを嫌がる官僚

 たとえ官僚に悪意がなくとも、現場や地方の実情を知らないことできめ細かい対応ができないケースはあるのだという。

 文化庁の場合、移転の意義はあるし、移転先の京都は大歓迎だった。ところがここで官僚たちの抵抗にあう。

「官僚が抵抗する大きな理由は、『東京から離れたくない』というものだったように思えます。たしかにお子さんの子育てなどを考えると、地方への転勤に抵抗したくなる気持ちもわからないわけではありません。

 さらに、『中央(国会、与党や他の省庁)とのコミュニケーションが十分にとれなくなる』といった意見も多く聞かれました」

 しかし、こうした意見に対して、石破氏はこう反論する。

「東京から離れたくない」というのは、国家のメリットを考えた場合、理由とはならないだろう。そもそも民間では転勤が当たり前の企業は多い。それだけでなく、多くの国家公務員にも転勤はつきもので、防衛省や財務省でも地方出向は珍しくないし、外務省に至っては国外勤務が当然である。

 さらに「中央とのコミュニケーション」うんぬんに関しては、一見もっともらしいが、調べてみると説得力に欠けるものだったという。

「文化庁を例にとってみれば、この数年間を見ると、実は国会で長官が答弁したのは2回だけ。それなら必要な時に出張すればいいだけの話です。

 それに重要な政策を扱っているとはいっても、緊急の呼び出しはあまり考えられません。

『いえいえ、国際交流が必要でして、そのためには諸外国の大使館のある東京じゃないと都合が悪いのです』

 こんな意見も出ました。しかし、ではどれだけ外国の大使と頻繁に会っているかといえば、それもまた稀なのです。

『文科省との連携が必要ですから、東京じゃないと……』

 しかし、そんなものはテレワークでもいいはずです。昔ならばいざ知らず、こんなに通信技術が進んでいるのに、会議や打ち合わせの全てをフェイス・トゥー・フェイスで行う必要はまったくありません。実際に、移転候補地で試験的にテレビ会議などを行った結果、それで十分ということになったのです」

 移転を具体的に進めるにあたっては、官僚のみならず、そこから情報を得ているマスコミもまたネガティヴな立場で報じることがあったという。移転なんて無駄じゃないか、中央とのコミュニケーションに支障が生じるのではないか云々。

 そうした意見に対して、石破氏はこう持論を述べる。

「真剣に考えていただきたいのは、その政策が日本全体のためになるのか、という点です。

 現場から乖離した環境で、早朝から深夜まで、国会答弁のために官僚が働き続けるようなことでは、いくら労働時間が長くても決して生産性が高いとは言えません。

 無駄な会議や打ち合わせに時間を費やすことが、本当に官僚にとって幸せなことでしょうか。そして国民にとってプラスになるのでしょうか。

 それよりも、現場の声を聞きながら、改善や革新のためのアイディアを練ることができ、しかも早い時間に家に帰ることも可能な環境で働いてもらったほうが、国のためになるのではないでしょうか」

 在任中に実行はできなかったが、今後も水産庁、林野庁、農水省などを生産の現場に近いところに移転することは検討すべきだ、と石破氏は提言している。

デイリー新潮編集部

2017年5月11日掲載

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