「カルピス酸乳アミールS」 “降圧剤より効果大”のまやかし

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「カルピス酸乳アミールS」

 売り文句ばかりが派手派手しく、根拠論文は説得力に欠ける羊頭狗肉なトクホは枚挙に遑(いとま)がない。

 だが、なかには、専門家が目を疑うほど、「劇的な効果」を誇るトクホもある。

 そのひとつが「カルピス酸乳アミールS」だ。

 効能として謳われるのは、その名の通り、「カルピス」の原料となる乳酸菌から産出されたラクトトリペプチド(LTP)が、血圧を降下させるというもの。主な根拠論文は「酸乳の軽症および中等症高血圧者に対する降圧効果」である。

 この論文に目を通した、国立医薬品食品衛生研究所の畝山智香子・安全情報部長によれば、

「論文では、被験者にLTPが計4・05ミリグラム入った乳酸飲料を1日に1本、8週間に亘って摂取させています。その結果、被験者の収縮期血圧(最高血圧)は、157・8(mmHg)=以下略=から144・1に13・7も下がった。医薬品として承認された降圧剤でも低下作用は概ね10程度。しかも、摂取量は広く知られる降圧剤“カプトプリル”の1日37・5〜75ミリグラムに対し、LTPはわずか4・05ミリグラムです。実験結果を信じれば、LTPには医薬品よりも強力な降圧作用があることになります」

 だが、それほどの実験結果が出ているのに、HPで紹介されるユーザーの声は、

〈ペットボトルなので旅行にも持って行きやすかったです(40歳・女性)〉、〈飲み忘れ、測り忘れがあり(中略)家族に協力してもらうことにより、会話が増えました(65歳・男性)〉

 といったものばかり。

 いやいや、実験結果が医薬品を凌駕しているのだから、その効果は「家族の会話が増えた」どころのハナシではあるまい。

 これには、東京大学医学部附属病院の山崎力・臨床研究支援センター長も、

「論文にあるような降圧作用が見込め、副作用もないなら医療用医薬品を目指せばいいと思うのですが……」

 と首を傾げるのだ。

「日本における降圧剤の市場規模は約1兆円です。医療用医薬品として承認されれば、数千億円の売り上げも夢ではありません。にもかかわらず、本腰を入れて開発に踏み切らないのは、医療用医薬品に求められる厳しい試験をパスできないと考えているからでしょう」

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