祖父と山本富士子が語る「宇野昌磨」 孫に受け継がれるDNA

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■小津先生にめぐりあえて

宇野藤雄氏

宇野:気持ちはよく分かりますが、なかなかやろうと思ってもできることではありません。長い年月を重ねて努力しないとできない。

山本:やっぱり今でも夫を尊敬しているんです。

宇野:尊敬すること自体も、努力しないとできませんよ。

山本:本当は私、お嫁さんになりたいと子供の頃から思っていて、今もその気持ちは変わっていません。ですから、今でも朝食は夫と一緒だった頃と同じように作ってお供えしています。そんなことを続けていると、夫が亡くなった後の寂しさや思い出から抜け出せないように思われますが、逆にいつも夫がそばにいてくれている気持ちになって……哀しい気持ちが急に楽になったんです。私たち夫婦は、夫がひとつの曲を作り上げていく過程と、私がひとつの役を作りあげる過程で、互いの悩みや達成感を共有しあえる関係でしたから。ちょっと惚気(のろけ)てしまいました。ごめんなさい。

宇野:いやいや、そういうことを言葉にできる方は滅多にいない。そう思います。山本さんの感性の素晴らしさはスクリーンでも実感していましたよ。もともと僕は古い無声映画の時代の頃から映画が好きで、小津安二郎監督のファンなのですが、山本さんのお出になった「彼岸花」。繰り返し30遍は見ている。昭和33年の作品でしたよね。

山本:よく憶えて頂いて。そうです、確かに。

宇野:あの作品が素晴らしいと思ったのは、女優さんの着物の柄が皆さんピタッと合っている。

山本:実は、撮影前に衣装調べっていうのがありまして、俳優と衣装さん、監督さんで話し合って決めますが、この時は小津先生が私の衣装を事前にすべて決めて下さっていました。そして、ファーストシーンで着た着物を私の撮影終了後に記念にとプレゼントしてくださいました。あれから59年の月日が経ちましたが、大事な宝物として大切にしています。小津監督は「なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」という、とても素晴らしい言葉を遺しておられて、今も私の心に刻まれているんです。本当に小津先生にめぐりあえてとても幸せだと思っております。

宇野:孫も映画史に残る山本富士子さんのような応援者を得られたのは素晴らしいことです。

山本:陰ながら応援していますから。これは希望なんですけど、昌磨くんは、たくさんジャンプをしたり音楽に合わせて滑るだけじゃない、ドラマ性のあるものをやって欲しい。例えば羽生さんの演目・安倍晴明みたいに1人の人物をドラマティックに演じるのが似合うと思います。まずは世界選手権ですね。昌磨くんの成長が、本当に楽しみです。

宇野:必ず優勝しますよ。

山本:そうあって欲しいですね、本当に。

***

 この対談後に開催された世界選手権では、宇野選手は羽生結弦(22)に次ぐ2位という結果に。惜しくも優勝とはならなかったが、7位に終わった前回大会からの大躍進を見せた。

特別対談「山本富士子vs.宇野藤雄 『本番までは全部転べ!』『術から芸術へ』 フィギュア一筋『大女優』と祖父が占う『宇野昌磨』金メダルへの道」より

週刊新潮 2017年4月6日号掲載

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