デイリー新潮

中国

「日本は毒針で中国を狙うサソリの形」中国の反日教育の実態

■「嘘つき中国共産党」の真実

2007年に日本に帰化した評論家・石平氏(右)、共産党当局に狙われて日本へ「亡命」してきた漫画家・辣椒氏(左)

マンガで読む 嘘つき中国共産党』で、習近平政権から自身が受けた言論弾圧の詳細を克明に描き、大注目を浴びている中国亡命漫画家・辣椒氏。

 天安門事件で中国政府に見切りをつけ、一貫して共産党独裁を批判する言論活動を続けてきた評論家・石平氏。

 前回、「習近平政権になってから、中国はますます凶暴化している」との認識で一致した2人は、さらに日中関係についても、ある深刻な懸念を共有しているという。

 2人が「リベラル派」の日本人にどうしても伝えたい中国共産党政権の真実とは――?
 ※以下、「新潮45」2017年2月号の対談記事を再掲

■江沢民が始めた日本敵視

辣椒 しかし、海外の人は中国から離れていることもあって、中国がそこまで危機の状態にあるとはなかなか考えません。

石平 天安門事件で中国共産党は存続の危機の際に自らを守るために戦車を出動させました。中国共産党が変わっていくかもしれないと楽観視する日本人もいますが、私がそのような人に言うのは中国共産党が北京の中心部で自らの国民に対し戦車を差し向けたことです。政権が危ういからと、東京でそのようなことが起きるでしょうか。

辣椒 その通りだと思います。

石平 日本人にもう1つわかってもらいたいのは、辣椒さんが漫画でも描いた反日、あれも天安門事件と関係があることです。天安門事件で中国共産党への神話が崩壊してしまい、事件後に台頭した江沢民政権は民心をいかに掌握するかの課題を持っていたのです。そこでごく自然なロジックとして別の敵を作ること、すなわち日本を敵に仕立てたのです。その頃から日本は中華民族の共通の敵になりました。そのような性質を持つ天安門事件であるのに、日本が間違っていたのは天安門事件後、外国が中国に行なっていた制裁からまっ先に抜けて、再び中国を援助したことです。自らを敵に仕立てた政権を援助したのです。以来、中国では学校教育の他、テレビや映画なども日本を敵とする傾向になったのです。

辣椒 1980年代、私が小学校の頃には日中関係はとてもよかった印象があります。その頃、日本の映画や漫画がたくさん入って来て、日本に対する印象もよかったです。私の周囲では手塚治虫先生の『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』などが人気がありました。

石平 1980年代に日中関係がよかったというのは私たちの共通の認識だと言えますね。もちろん1980年代以前も抗日戦争を題材にした映画はあったわけですが、今との違いは中国共産党の八路軍の活躍に重きを置いていたことで、今のように故意に日本を悪く描くことはなかったのです。それどころか、登場する日本人はきわめて滑稽な扱いで、見ると笑ってしまうほどでした。それが90年代以降に作られたものは日本軍による凄惨な殺戮シーンなどが出てきて、あれを見ると日本に対する憎しみが湧いてしまうのです。それに加えて、辣椒さんがこの本の中で描いていた……。

辣椒 「照」という字の覚え方ですか?

石平 そう。北京の小学校で教えていたという。

辣椒 「照」を教えるのに「1人の日本人が刀を持って1口(人)の人を殺して、4滴(部首のれんが)の血が流れた」と教師が教えたそうです。あれは恐ろしいと思います。

米amazonでも1位となった話題の本『マンガで読む 嘘つき中国共産党』の内容

石平 私の妹の息子が学校でこんなことを教わったと言います。「日本の地図を見てみよう。あれは猛毒を持つ蠍のようなものだ。この蠍がいつも尾の毒針を出して狙っているのは海のこっちの私たちの祖国だから、日本と戦わねばならない」と。妄想に基づく反日脅威の典型ですね。

辣椒 こういうケースもあります。ある家庭で息子が父親と一緒に抗日戦争ドラマを見ていて、ともに日本に対して怒りの感情を持ちました。一方、母親はドラマに興味がなく、ある時、友人から日本がいいと勧められて家族で日本旅行しようと提案しました。ところが、母親はもとより父親が説得してもその息子だけは頑として日本旅行に反対したというのです。怖いのは情報が限られている中で長期的にこのような番組を見ていると、思考に悪影響を与えることです。たとえば私の父は抗日戦争ドラマがずっと好きで、その影響から他の国の映画を見ても登場人物についていちいち「こいつは敵か味方か」と決めなければ気が済まない習性が身についたのです。アメリカの映画だといい人、悪い人がそんなに鮮明には描かれずに、悪い人でもいい面があったりもします。でもそういう作品にはなかなか馴染めません。

石平 それは中国共産党の基本的思想です。中国共産党のやり方は要するにすべての人間を「いい人=人民」と「悪い人=人民の敵」に分けることです。「いい人=人民」は共産党に服従し共産党を擁護する人ですが、中国共産党に刃向かう人は皆「悪い人=人民の敵」。そして、前者は後者を吊るし上げても殴り殺しても何をやっても許される。悪い人には法律上の保護もないのです。

辣椒 中国人の台湾に対する意識にも表れていますね。台湾人を同胞と意識しますが、台湾独立派と知ると、犯罪者扱いです。

石平 中国人の思考にはいったん敵と決めつけたならば何をやっても許されるという発想があるのです。このことは日本のような文明社会の人には理解しづらいでしょうが、それでも理解する必要があります。教育の違いは大きいです。日本の幼稚園では平和や生命の尊さを教えます。今、息子に読み聞かせている絵本も自然や生命に感謝する内容です。私が小さい頃に読んだ絵本は全く違います。たとえば、国民党兵や日本兵を手製の槍で刺し殺す「ちびっこ英雄」といったものはよく出てきます。そんな英雄、日本の絵本にはいないはずです(笑)。こうして中国共産党が敵とみなした人は悪い人とされて、そういう人に対しては何をやってもいいと考えるようになる。昔の国民党がそうですし、将来は日本かもしれません。

■将来の中国

石平氏の新刊『トランプvs.中国は歴史の必然である 近現代史で読み解く米中衝突』

辣椒 今の中国は真摯に物事を考える人には生きづらいです。

石平 そうなると、行き着くのは何も考えないことです。

辣椒 その通りです。「社会や政府を批判して何のメリットがある」と考えて、金儲けに走るのです。

石平 毛沢東は27年にもわたって専制統治を続けました。彼の死後、トウ小平が改革開放政策を始め、中国共産党の圧政自体は変わらなくとも、その他の新鮮な空気も徐々に中国に入って来て、人々は「中国が進歩していく、だんだん自由になるだろう」と思うこともできました。胡錦濤政権の時も、毛沢東ほどには徹底的な支配をせず、弾圧はあるものの放置された空間もあったわけです。ところが、習近平政権は完全に毛沢東時代に戻りました。結局この六十数年間で中国は進歩がなかったわけです。

辣椒 毛沢東時代と変わらぬ性質のまま、さらに進歩しているとも言えます。もしこのまま経済が破綻することがなければ、習近平は毛沢東以上の史上最も完璧な独裁体制を築けるわけです。中国政府は、インターネットを通じた全国民の信用評価を築き上げようとしています。オンライン取引のアリババなどがやっているネットユーザーのランク付けを中国共産党が応用したらどうなるのか? ブラックリストに入ったら鉄道や飛行機の切符も買えず、パスポートも入手できなくなるのです。すでに政府批判をする弁護士などがその被害に遭っています。

石平 完璧な専制と言うほかありません。そのように各人、各家庭に入り込む専制は清代以前すら存在しなかった恐ろしいことです。あらゆる人の意見が中国共産党に掌握されるのです。そうなると胡錦濤政権時代にはまだ存在したガス抜きさえもなくなってしまい、民衆の不満や怒りは溜まりに溜まっていつ爆発するかわからなくなります。

辣椒 もし民衆の不満の爆発が起きたら、中国は乱れに乱れて、今以上に悲惨なことになるのではないかと、悲観的になってしまいます。

石平 問題はそこにあります。中国人民は人民自身が社会を管理していく術を失ったのです。胡錦濤政権時代には公民社会(市民社会)が芽生えました。この意義は社会が自主的に社会を管理できる点にあります。しかし習近平はこれを奪った。このことは大きい。残念なことにここ数年、中国は世の中がよくなるどころか、元の暗黒時代に戻っています。

辣椒 私が中国の将来について悲観的なのは市民社会が未発達なまま押し潰され、まさに中国共産党が目指したように「中国共産党がなければ乱れる」国になったからです。もし経済が破綻するなどして中国共産党の支配体制が崩壊でもしたら、未曾有の数の難民が発生するのではないでしょうか。

石平 私は生涯日本で生きていくつもりですし、息子は日本人です。息子もその息子もこの美しい国で平和に暮らしてほしいと願っています。中国共産党が崩壊して数百万や1000万以上の中国人難民が押し寄せたら日本社会も崩壊するのではないかと気になります。もう1つ考えられるのは、いよいよ中国共産党が崩壊することがわかった時に周辺国へ戦争を仕掛けることです。まず考えられるのは台湾ですが、日本に対してもないとは言えません。

辣椒 この本にもありますが、昨年安全保障関連法案のデモが盛り上がった時に私は風刺画を描きました。もし中国共産党が攻めてきたらどうするのかとの思いでした。デモの中でその作品を掲げていたら大勢の人に取り囲まれました。同行した友人がガードしてくれて、警察が来てようやく収まりました。

石平 彼らに表現・集会の自由があることは確かですが、辣椒さんにも表現の自由があって然るべきです。しかし、彼らは自分たちの表現・集会の自由以外の自由は認めないのです。これは日本の左翼の特徴で、中国共産党と変わりません。つまり、彼らの頭の中でもいい人、悪い人という図式があって、いい人は何をやっても許されるが、悪い人は何をやるのも許されないのです。私はインターネットでよく日本のリベラル派も批判しますが、自分たちの好みに合わない意見の存在を認めないのは反民主主義であり、これらを喜ぶのは習近平にほかなりません。私たちの声はなかなか中国には届かないでしょう。今私たちがやれることは日本の読者に中国共産党の本質をわかってもらうことだと思います。

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 なお、2月28日には東京新宿区で『共産党の〈ウソ〉と〈真実〉』というトークイベントを開催するという辣椒さん。東京大学の阿古智子准教授、ライターの高口康太さんの2人の中国通と共に、日本人には分かりにくい習近平政権の問題点を、自らの逮捕・尋問体験や、TV番組・インターネットの最新事情などを交えながら、レクチャーする。
http://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01eaz8ypgixg.html

辣椒(らーじゃお) 本名・王立銘。1973年新疆ウイグル自治区生まれ。広告会社に勤めながら、2009年から「変態辣椒」のペンネームで政治風刺漫画をネット上で発表。中国政府の迫害を受け、2014年8月から日本に滞在中。

石平(せきへい) 1962年中国四川省生まれ。84年北京大学哲学部卒業。四川大学講師を経て、88年に来日。95年神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。02年より日中・中国問題を中心とした評論活動に入る。07年日本国籍を取得。

  • 2017年2月23日 掲載
  • ※この記事の内容は掲載当時のものです

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