デジタルを凌駕する「100万円」南部箒、スネークウッド製「210万円」の杖 日本の超高級ガイド

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〈ムダに高いモノもある日本の超高級ガイド2017(4)〉

■100万円の南部箒

「南部箒」

 衣食住の礎があってこそ、日々の暮らしは充実する。岩手県九戸村で作られる「南部箒」は、かの南部鉄器と双璧をなす地元産の高級日用品。1993年から本格的に手掛ける「高倉工芸」の高倉清勝社長に尋ねると、

「かつて南部と呼ばれていた九戸村の農家では、昔から自分たちで農具を作る習慣がありました。農閑期に箒を作り、家で使うもの以外は市で売って副収入にしていたのです。私の実家も7代続く百姓で、米や野菜を作る傍らで箒を編んでいました。そうした郷土の文化を守っていこうと思い、会社を立ち上げたのです」

 その箒の特徴は“縮れ”に尽きるという。

「九戸地方では初夏から夏にかけ“やませ”が吹く。この冷たく湿った風のおかげで、春に植えたホウキモロコシ(ほうき草)の穂先が縮れ、掃除に力を発揮してくれるのです。雪が消える頃から1・5ヘクタールの畑を耕し、5月下旬から種蒔きを開始。お盆が過ぎて草が3メートルほどに伸びたら手作業で収穫に取り掛かります」(同)

 1カ月半ほどで全てのほうき草を刈り取ると、

「沸騰させた釜に入れ、色よく仕上げて天日干しします。それから5人がかりでおよそひと月かけ、縮れた草を選別していきます」(同)

 穂先を束ね、力縄を使って一本ずつ編み込んでいく。最も熟練の技が要求される箇所で、肝心のお値段はスーパーに並ぶ“普段使い”のざっと15倍。

「うちで一番の売れ筋は、3万円(税別)の小箒です。ほか50万円の長柄箒は、縮れ具合を厳選した一品。職人は指先と眼で縮れを15段階に選別するのですが、50万円の品は最高ランクの草だけで作られている。1年分の収穫ではとても賄えないので、何年もの間、選んで取り貯めて作るのです」(同)

 会社には100万円の品も在庫があるという。実際のユーザーは、

「50万円の品はこれまで10本ほど売れましたが、お客様は都会の方が多い。住宅街やマンションで夜中に掃除機をかけると近所迷惑だから、この時代にあえて箒を使っているのかもしれません。ですが値段の分、弊社の箒は20年は使い続けられます。何より実によくゴミが取れる。畳やフローリングはもちろん、絨毯にからみついたペットの毛や糸くずなど、サッと軽く払うだけで簡単に除けます」(同)

 吸引力が強い掃除機だと、かえって布が傷んでしまいかねない。メンテナンスについても、

「水洗いできますが、穂先を地面につけると曲がってしまう。普段は吊るか、逆さに立てかけておいて頂ければ構いません」(同)

 まさに、アナログがデジタルを凌駕するわけだ。

■1本210万円する杖

 そうした暮らしの先に、誰しも迎えるのが老いである。あるいは杖が手離せなくなる人もあるだろう。といっても、今や介護用に止まらず、ファッショナブルな品が目白押し。例えば200万円超の商品を取り扱う京都市の専門店「つえ屋」である。10年前に開店し、現在は全国で11店舗を展開する坂野寛社長は、

「もともと仕事で介護用の杖を作っていたのですが、ビジュアル的には優れておらず、いかにも高齢者向けといった品でした。ある時、ステッキの文化が根付く欧州に出かけ、とても美しいデザインの杖を見たのです」

 国内ではいまだ、杖を持つことにネガティブな考えがあるといい、

「欧州のようなスタイルを浸透させて杖のイメージを一新したいと考え、お洒落な杖を売り出しました。さらには目の肥えたお客様に“黒檀の杖もないのか”と言われたことで、質でも量でも一番を目指そうと思ったのです。象牙や水牛などの素材や、変わったデザインの品を片っ端から集めました」(同)

お値段は210万円!

 現在の在庫は15万本に至る。全国の店舗で毎月3000本ほど売れるといい、店頭には数千円から数万円の品を陳列。それ以上の高級品は事務所で保管されている。ちなみに、持ち手の部分が水牛の骨製の品は20万〜30万円、象牙や金箔貼りはおよそ60万円。そうした400本ほどのコレクションのなかでもとっておきの一品は、超稀少なクワ科の高木「スネークウッド」製の杖だという。こちらのお値段は210万円(税別)。

「ブラジル原産で最高峰の素材とされ、チャーチルや吉田茂も愛用したと言われています。杖用の角材で1本60万〜70万円。加工に際しても、持ち手は1本の木を万力で曲げて作り、これに5カ月かかる。スネークウッドは非常に硬いので、1日に5ミリずつしか曲げられないのです。曲げ終わった後も、形を安定させるため3カ月間固定しなければなりません」(同)

 そもそも加工段階で、およそ5本に1本が割れてしまうので、こうした高値になるという。

「取り扱いを始めたのは5〜6年前。これまで15本ほど作り、8本売れました。直近では3カ月前、中国人が2本買って行きましたが、趣味というより、投機目的ではないでしょうか」(同)

“散歩の友”をモデルチェンジすれば、あなたの気分も高揚、脳の活性化に繋がるかもしれない。

 さて(1)冒頭の書に戻ると、仁王の眉や鼻を薪の中に見いだせない漱石は、最後に諦め、こう結ぶ。

〈ついに明治の木にはとうてい仁王は埋っていないものだと悟った。それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った〉

 漱石は示唆した。卓越した天才の技は、過誤なく名作を次々と創り出す。その作品は幾世の時を超え永遠に生き続けるという真理を。運慶とはいかないまでも、クリエイターたちは自作に永遠の命を吹き込みたいものだろう。果して今回、ご紹介した品々は後世まで末永く生き残れるや否や――。

特集「ムダに高いモノもある日本の超高級ガイド2017」より

週刊新潮 2016年12月29日・2017年1月5日新年特大号掲載