「赤字鉄道でも廃止してはいけない」地域再生のプロが警告

国内 社会 2016年12月16日掲載

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都電荒川線と東京スカイツリー(c)Chatama、CC BY-SA 3.0 Wikimedia Commons

■「赤字鉄道」と地域再生(2)

 JR北海道は先月、営業距離の約半分に当たる10路線13区間を「単独では維持困難な路線」と発表、沿線自治体と路線廃止も含めた協議に入ることになった。

「鉄道を廃線にしても、代わりにバスを走らせれば問題ない」――鉄道廃止派の多くは、そう考えるだろう。しかし、そのような考えに疑問を呈す2人の専門家がいる。

 1人は、『和の国富論』などの著作で知られる地域再生の専門家の藻谷浩介氏。もう一人は、『鉄道復権』などの著作で知られる交通経済学者の宇都宮浄人氏である。

 2人の専門家は、なぜ赤字鉄道の廃止に反対するのか――? 両人の対談が収録された『しなやかな日本列島のつくりかた』から、一部を再構成してお伝えしよう。

■自動車道路に対する鉄道の優位性

藻谷 以前、どういう道路に一番お金がかかっているのか調べてみたことがあります。それで気がついたのですが、道路にかかる費用は、路面の面積に比例するんです。過疎地の1車線の林道などが無駄遣いと思われがちですが、実際には都市近郊の4車線で街路樹がついて、歩道までついてる道路のほうが、はるかにお金がかかる。たとえば道路はアスファルトが摩耗するから一年中舗装し直す必要がありますが、通っている人間当たりの面積が広いのでムダにお金がかかる。路面の清掃作業や除雪、街路樹の剪定などの維持費も馬鹿にならない。
 対して鉄道の優れているところは、通っている人間当たりの使用面積が狭いことです。街灯も不要だし、レールは磨耗に強いので頻繁に替えなくてもいい。

宇都宮 LRT(Light Rail Transit ライトレール交通)よりバスのほうがいい、という話が出るとき、バスの運行で道路舗装が傷つくことは考えられていません。

藻谷 タイヤも摩耗しますしね。鉄輪は磨耗に強いし燃費もいい。車輪の接地圧力が高いので、少々の積雪があっても高速で定時運行できます。
 鉄道は産業革命の初期にできたシステムです。当時は資源や労力面での制約も大きかったでしょうから、できるだけ手をかけず、使用面積を少なくして作れるシステムを考え出したのだと思います。
 その後、技術が進歩し、機械で広い面積を壊せるようになってから道路を作るようになるわけですが、やっぱり資源がない頃にやっていたことって、すごく効率的で省エネなんです。
 だから過疎化が進む地域ほど、世間の先入観とは逆に、広い道路をたくさん維持するのはやめて、なるべく鉄道を使ったほうがトータルでお金がかからない。
 何より日本の鉄道は、すべての電車が時間どおりに来ることがインフラとして素晴らしい。

宇都宮 中国なんか、予定より早く出ますからね(笑)。10分前にもう改札を閉めちゃう。

藻谷 先日、萩で講演をした後、夜に会合がありました。そこから宿まで6キロあって、皆タクシーで帰ったのですが、私は少し夜風にあたりたくて、歩いて帰っていました。さすがに途中で少しきつくなって、携帯で検索すると、なんと近くの駅にまもなく山陰本線の最終列車が来ることがわかったんです。駅まで行って、本当にこの真っ暗でひと気のない無人駅に電車が来るのだろうかと不安になっていたら、時間どおりに単行(1両編成)がパタッと来ました。
 5人しか乗っていなかったけど、そんな深夜でも山陰本線をインフラとして、運行してくれているわけです。しかも140円。タクシーに乗ったら、3000円はかかる距離だと思います。
 この素晴らしいシステムを、鉄道会社の多くは採算も度外視して、最低限のところで一生懸命維持してくれている。

宇都宮 鉄道の価値は、まさにそこですよね。そこに存在しているということ自体が、人々に「利用したいときにいつでも利用できる」という選択肢を提供することになる。先日、ある鉄道に対する自治体の支援が議論になったとき、税金で鉄道を支援するのは、「受益者負担」に反するといった意見が出ました。けれども、鉄道の恩恵を受けているのは、今乗っている人だけではない。沿線や地域が、鉄道の存在そのものの受益者なんです。

藻谷 病院と同じで、普段は行かないかもしれないけど、いざというときにはあるという安心感がありますね。

宇都宮 たとえば家を買うにしても、今は使わなくても、将来子どもが中学生になったら電車で通うかもしれないと思って、鉄道沿線に買う人が出てくる。

■高齢化社会にはライトレールが最適

藻谷 今後高齢化していく社会にとっても、本当にありがたいものなはずです。
 駅のある場所から離れている地域では高齢者も車で動くしかありませんが、後期高齢者の交通事故は年々増えています。80歳前後で、さすがにもう車に乗りたくなくなると、家の中に引きこもるので、歩く習慣を失って体力が落ちたり、肥満になったりしてしまう。

宇都宮 それでゆくゆくは、介護費や医療費がかさんでいく。鉄道という公共交通には、その費用を減らして余りあるだけの価値があると思います。
 たとえば富山ライトレールは、廃線が検討されていた従来の路線を引き継いで生まれた路線ですが、開業後に乗った人の2割は新規の利用者で、しかも、平日の60代、70代の利用者が増えています。従来であれば、普段は出かけず、週末に子どもや孫の車で移動していた人たちが、ライトレールだと移動できるようになったわけです。このLRTはホームから乗車まで、段差がまったくない作りになっています。

介護費や医療費がかさんでいく。鉄道という公共交通には、その費用を減らして余りあるだけの価値がある

藻谷 その原型は、実は東京都電です。都電で唯一残された荒川線が、おそらく日本で最初に全部のホームの端をスロープにしました。乳母車でも車椅子でも、そのまま乗せられるようにしてあって、お客さんも多い。
 しかし、経営的には実は儲かっていません。黒字だったり赤字だったりしますが、基本的に収支相償です。
 それでも、あの最後の線を廃止しろという議論にはなりません。公費の持ち出しゼロで運行され、多くの雇用も生み、その人件費を全部払って、わずかな赤字。それに対して、生み出している社会的便益がはるかに大きいからです。沿線の人が、5分おきに来る都電に乗って、のんびりと、学習院のほうの病院に行ったり、荒川あたりへ行けるというのは、ものすごく便利なシステムです。

宇都宮 ただ都電は今かなり混んでいるので、もう少し長い車両を走らせたほうがいい。あの混雑のために、「もう都電はやめようか」と考えているご老人もいるのではないでしょうか。今は、車庫なんかに投資していないのでしょうが、きちんと投資をして、長い車両と、それが入る車庫を確保する。そうすれば、もっと利用者が増えると思います。

※この対談の完全版は、『藻谷浩介対話集:しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮社刊)で読むことができます。

藻谷浩介(もたに・こうすけ)
(株)日本総合研究所調査部主席研究員
1964年、山口県生まれ。東京大学法学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)、米国コロンビア大学ビジネススクール留学等を経て、現職。地域振興について研究・著作・講演を行う。主な著書・共著に、『デフレの正体』、『里山資本主義』、『藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた』、『和の国富論』、『観光立国の正体』など。

宇都宮浄人(うつのみや・きよひと)
関西大学経済学部教授
1960年、兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。1984年に日本銀行に入行。2011年に関西大学経済学部教授に就任。著書に『鉄道復権』(新潮選書、第38回交通図書賞受賞)、『路面電車ルネッサンス』(新潮新書、第29回交通図書受賞)、『地域再生の戦略: 「交通まちづくり」というアプローチ 』(ちくま新書、第41回交通図書賞受賞)など。

デイリー新潮編集部