「都議会のドン」だけじゃない! 「観光立国」の前に立ちはだかる「地域のボスゾンビ」たち

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「地域のボスゾンビ」とは、地元の有力な観光事業者で、一族からはしばしば政治家などが輩出することもある「現状維持勢力」のことである

 小池百合子都知事の誕生で、それまで語られることのなかった「都議会のドン」や彼を取り巻く利権構造が可視化されたが、「ドン」が生息しているのはもちろん東京に限らない。むしろ、問題は地方の方が深刻だ。
 地域の再生に現場でとり組む2人の専門家が「ぶっちゃけ」で現状を語って話題を呼んでいる『観光立国の正体』(藻谷浩介、山田桂一郎著)によると、観光立国にとって最大の問題は「地域のボスゾンビの存在」だと言う。

■「半沢直樹の敵みたいな人」

 「地域のボスゾンビ」とは、地元の有力な観光事業者で、一族からはしばしば政治家などが輩出することもある「現状維持勢力」のことである。自分たちの商品や魅力に磨きをかけることなく、「もっとPRすれば客は来てくれるはずだ」と信じて、旧来型の観光の仕組みに安住し続ける人たちである。「比喩的に言えば、自分では何もしないけど他人の邪魔だけはする、半沢直樹の敵みたいな人」(藻谷氏)。

 バブル崩壊以降、有名観光地の多くは凋落傾向に苦しんできた。そうした現状を打開しようと、地元の事業者の中には若手を中心に、新しい試みをしようと考えている人たちも出ている。それが功を奏して復活を果たした観光地も多くある。
 しかし、そうした若手たちの試みを苦々しく見ていて、事あらば潰してやろうと考えている「地元の名士」たちも沢山いたのだ。その「地元の名士」が現状維持を図り、改革の芽を潰しにかかったとき、「ゾンビ」と化するわけである。

観光立国の正体』の中で挙げられている例の一つに、志賀高原がある。志賀高原ではかつて、若手事業者たちが停滞する現状を打開するために新しい試みを構想したことがあったが、地元に君臨していた「ボス」が圧力をかけて改革の芽を潰してしまったのである。それから数年が経ってインバウンドブームが起きたものの、志賀高原はそのブームに対応するための準備が出来ておらず、外国人客を取り逃がしてしまった。しかも、圧力をかけていたそのボスの会社自体が倒産してしまったのである。

 同じ頃、近くにある野沢温泉では若手の改革が実を結んで、スノーリゾートとしての評価が高まった。今では外国人スキーヤーが2週間単位で滞在する場所にまで変貌を遂げているが、地元のボスに食い物にされた志賀高原は、いまだ充分にインバウンドを取り込めずにいる。

■有名観光地でゾンビ大復活!

 同書の中で、著者で観光カリスマの山田桂一郎氏はこう語っている。

「最近の動きでとても気になるのは、全国的に有名な観光地や温泉地の観光協会や宿泊業組合等の組織で、役員が老齢化していることです。これまでの古い体質から脱して、新しい組織で動きだしたと思ったら、役員が前の世代に先祖返りしてしまっている場合も多い。でも、居座っている古い人たちも何をすればいいのかぜんぜん分からない。役職を手にして喜んでいることだけは確かですが(笑)。
 九州にある超有名温泉地でも、新しい観光推進組織が立ち上がり地域全体で支えて行かなくてはならないという時期に、地元の宿泊業組合の役員が代わって『逆走』が始まったことがありました。役員が代わっただけで、それまでまちづくりに頑張っていた組織がただの会員同士の親睦会になってしまった。全国の老舗温泉地ではいくつも実例がありますが、どの地域でもうかうかしているとやる気ある若手にとって代わろうとするヤクガイゾンビに乗っ取られますね。ヤクガイとは薬害ではなくて、役職だけを欲しがる役害です」

 この九州の有名温泉地の他にも、北陸地方の有名温泉地、中部地方の海辺のリゾート地など、役害ゾンビが復活している観光地は枚挙にいとまがない。皮肉なことに、「地方再生」とか「観光立国」というスローガンが声高になっていることが、ゾンビたちを妙に元気にしている面もあるという。

デイリー新潮編集部

2016年11月29日掲載

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