「平壌にラーメン屋」と旅立った金正日の料理人、音信不通に

韓国・北朝鮮週刊新潮 2016年12月8日号掲載

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 バンダナにサングラスの異相で知られる「金正日の料理人」こと藤本健二氏(仮名)が平壌に向かってはや3カ月。「うまいラーメンを作って金正恩委員長に食べてもらう」と北京経由で北朝鮮に入国したのは分かっているが、その後ぷつりと音信が途絶え、日本で帰りを待つ知人たちをやきもきさせているという――。

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藤本氏が通い詰めていた築地「井上」で

 包丁一本サラシに巻いて、旅に出るのも板前修業の一つと聞くが、北朝鮮の“将軍様”、故金正日総書記の専属料理人だった藤本氏が、トランクいっぱいの食材とともに訪朝、旅の身空となったのは夏の終わりのことだった。

「藤本氏は自分が寿司職人として働いていた平壌の最高級ホテル『高麗ホテル』に店を持ちたい、そこで築地の名店『井上』の味を再現したラーメンを出すのが夢だ、と長らく公言していました。それが今回、念願叶って平壌で店を出せる、と張り切って旅立ったのです」

 とは、彼をよく知る人物だ。十数年間、料理人として金一家に仕え、幼少期から現最高指導者の金正恩を知る藤本氏。その金正恩の肝煎りで、特等地に建つ最新ビルにフロアを与えられ、朝鮮労働党の創立記念日、10月10日に店をオープンする予定だったという。件の名店のレシピを携えた藤本氏はまず北京に入り、たまたま同地に居合わせた日本のジャーナリストと会食後、平壌に入ったというが、

「その後、何の音信もなく、消息不明なのです。藤本さんは2012年に11年ぶりに訪朝してから今回で4度目、今年は3度目の訪朝なのですが、こんなことは初めてです。万が一、収容所などに送り込まれている恐れもないわけではありませんから、心配です」

 とその知人は語るのだ。

■長男怪死の奇禍

 北京経由で平壌に入ったのなら北京経由で出るはず。そう踏んだ北京駐在の日本人記者たちも、平壌からの便が到着するたびに乗客のチェックを行っているが、行方は杳(よう)として分からない。

 肝心の藤本氏の店についても“予定通りオープンしたようだ”という情報がある一方、10月中旬に平壌を訪れた北朝鮮に詳しいジャーナリストは“藤本さんの料理店を探したが見つからなかった”と証言。“11月に愛知県の総連関係者が北朝鮮を訪れて、藤本さんの店を探したそうですが、やはり見つからなかった”と言うし、“水害の影響でビルの建設が遅れ、オープンが遅れている”という説も流れ、錯綜している。

「北朝鮮というお国柄、こちらから連絡が取れないのは仕方なくとも、藤本氏なら連絡しようと思えばできるはず。それができぬ状況にあるのだとしたら……」(同)

 実は藤本氏、北に家族を残しているが、12年の訪朝直前に長男が怪死する奇禍に見舞われている。

 藤本氏をよく知る「コリア・レポート」の辺真一編集長は言う。

「元々、彼が変装していたのも北のヒットマンを怖れてのこと。関係者が安否をめぐってやきもきするのも無理からぬことです」

 北朝鮮に詳しい別のジャーナリストも言う。

「彼が脱北した際、日本の公安当局に“自分か金正恩が死ぬまで出さない”という条件で秘密文書を提出したと聞きます。その真偽は定かでないですし、藤本氏本人に何度か促したこともあるのですが、決して口にしません。もしも彼が何か秘密を握っているなら、金正恩はむしろ彼を厚遇して、目の届く北朝鮮国内に留め置きたいと考えるはず」

 料理人が腹に飲んだ刃が、自身の命を守ることもありうるというのだ。

ワイド特集「1度目は悲劇 2度目は喜劇」より