高齢者でも肉を食べるべき――ただし「赤身肉」が動脈硬化の原因に? アンチエイジングの第一人者が語る最先端

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■「アンチエイジング」第一人者が語る健康不老の最先端(2)

 抗加齢医学の第一人者である久保明医師が、アンチエイジング分野の最先端の情報を解説する。第1回では、ビタミンEやカルシウムなど「栄養素」の最新事情を紹介。つづく今回は「運動」「肉食」をテーマに、日々の暮らし、健康を考える。

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【運動に関する先端情報】

 運動についても、新たなニュースが届けられています。

 同じ米医学誌(※2=掲載媒体名は文末参照、以下同)の論文は今年、運動はあらゆるがんを予防する、という従来の常識を覆しました。

 10代から90代の144万人を対象としたその研究は、ラジオ体操や5分程度のウォーキングを最低でも週5日は習慣づけている人たちと、ほとんど体を動かしていない人たちを、比較考察しています。

 結果、紫外線の影響が現れる悪性黒色腫(皮膚がん)を除いて、基本的には多くのがんに予防効果が認められました。発症リスクの低下率は食道がんで42%、肝臓がん27%、肺がん26 %といった具合です。

 ところが、前立腺がんではリスクが5%増えていた。

 5%という数字は小さいもので、そこに有意差は認められませんが、少なくとも「予防効果がなかった」とは言える。原因は今後の研究を待つしかないものの、いささか衝撃をもって受け止められたのでした。

 また、1日10時間以上のデスク仕事をしている人にとっては、軽度や中度の運動では意味をなさないことが専門誌(※3)に報告されています。

 時速8キロほどの早歩きに相当する運動を1日30分、ないし2時間半程度、約150人に対して一定期間行わせ、肥満度や腹囲の増減を調べた結果、ポジティブな変化が見られない一群がありました。

 それが10時間以上の座り仕事に就く人たちでした。

 あまりに長時間座っていると、もともとの代謝機能自体が低下してしまっているから、というのが考えられる理由でしょう。

 しかし、打つ手はあります。毎日、短時間でも体を動かすことなのです。

 有酸素運動は20分以上持続しないと体脂肪が燃焼しない。長らくそう信じられてきました。が、ここ10年以上の研究では時間より強度や頻度が問題で、1回5分くらいの運動でも繰り返し、継続させれば効果が期待できると判明しています。

 ごく短時間でもいいから必ず毎日、しっかり体を動かす。それにより脂肪の燃焼、ひいては肥満度の低下が見込めるのです。

 最近では運動がもたらす腸内環境の変化についても考究が盛んで、スイスの科学誌(※4)に載った記事によれば、軽いエクササイズで腸内に乳酸菌やビフィズス菌、ガゼイ菌など善玉菌が増えることがわかりました。

 理由としては、①腸内の蠕動の活発化、②腸管部の神経や消化管ホルモンなどの「腸管免疫系」の変化、③若返りホルモンとも呼ばれるマイオカインの分泌促進、などといった要因が考えられます。

 これまで有酸素運動の効果といえば動脈硬化の予防ばかりが主に取り沙汰されてきましたけれど、じつは腸内環境までも改善しうる可能性が確かめられつつあるのです。

【肉食をめぐる意外な話】

赤身部分が多い肉はヘルシーだと思いがちだが…

 高齢者であっても肉を食べるべきであることは、もはや周知の事実かもしれません。が、欧米ではさらにその先、レッドミートかそうでないか、といった観点からの考察が進んでいます。

 レッドミートとは「赤身肉」、つまりは牛肉や豚肉のことで、そうでないのが鶏肉です。

 米国の内科専門誌(※5)に発表された論文は、看護師などの医療従事者12万人を調査したところ、レッドミートは動脈硬化を促進し、死亡率とも無関係ではないことが明らかになった、と述べています。

 赤身肉に含まれる栄養素のカルニチンが腸内で消化、分解されて発生する物質が、肝臓の酵素によってTMAOという有機化合物になる。このTMAOが血管内皮に働きかけて動脈硬化を促進する、というのです。

 赤身肉のかわりに鶏肉、魚、ナッツ、豆類などを主に食べているグループでは死亡リスクが7〜19%低かったことから、赤身肉ばかり食べていると死亡リスクが高まるとの結論にいたったわけです。

 私たちは脂肪分を気にするあまり、赤身部分が多い肉はヘルシーだと思いがちですが、血管の老化につながりうるという事実には留意しておく必要があります。

(※2)「JAMA:The Journal of the American Medical Association」
(※3)「Journal of Aging and Physical Activity」
(※4)「Frontiers in Systems Physiology」
(※5)「Archives of Internal Medicine」

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「アンチエイジング」第一人者が語る健康不老の最先端(3)へつづく

特別読物「『アンチエイジング』第一人者が語る健康不老の最先端――久保明(東海大学医学部客員教授)」より

久保明(くぼあきら)
1979年、慶応大学医学部卒。88年、米ワシントン州立大医学部動脈硬化研究部門に留学し、帰国後は予防医療とアンチエイジング医学に取り組む。現在は医療法人財団 百葉の会 銀座医院 院長補佐、常葉大学健康科学部教授などをつとめる。

週刊新潮 2016年12月8日号掲載

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