常連みのもんたも「非常に残念」 カカクコム会長が買収で閉店の赤坂料亭

社会週刊新潮 2016年11月17日号掲載

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 秋の終わりごろ北から渡ってくる渡り鳥だったトキ。羽の色から、うすくオレンジがかった桃色をトキ色と言ったが、トキが絶滅に瀕するのと合わせるように、呼び名も「ピンク」へ転じた。ときの残酷な流れを『ことばの歳時記』(新潮文庫)が教えてくれるように、赤坂の料亭「口悦」が「食べログ」などを運営するカカクコムの会長に買収され、店を畳むという。

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赤坂の料亭「口悦」。看板は画家で書家の中川一政による

 今年6月27日のことである。首相官邸にほど近い港区赤坂2丁目にある口悦を、同月に設立されたばかりの「ケィ・ジー3」なる会社が購入している。赤坂の不動産関係者によると、

「代表取締役の欄に『林郁』とあります。これはカカクコムなどを傘下に収め、東証1部に上場する『デジタルガレージ』社CEOの林さんと同一人物です」

 買われた側の口悦は、「歴代の首相で訪れたことがない人はいない」と言われるほど、政治家や官僚、そして財界人が蝟集する料亭として屈指の評価を得てきた。女将は喜寿を超えた渡辺純子さん。東大卒の映画俳優として人気を博した故・渡辺文雄の妻である。

 事実、渡辺は生前、

「女房の家が、昔、料亭をやっていて。それを女房が再開したのが、結婚して5年ぐらい後のことです。店の名を改める際、映画監督の小津安二郎さんが、口が悦ぶと書いて“口悦”と付けてくれました」

 と、雑誌のインタビューに答えている。

「どんどん赤坂の灯が消えていく流れのなか、最後の名料亭と呼ぶべき一軒です」

 と、さる常連客。

「本格的な数寄屋造りで、一から作れる職人はもういないんじゃないでしょうか。それくらい建物に価値がある。座敷、カウンター、そしてバーが設えられていて、座敷だけ『一見さんお断り』。こちらが呼んでなくても赤坂の芸者が必ずつきます。事務次官とか局長を“ちゃん”付けで呼ぶほどの彼女らは口悦専属、つまりここで食っているので、店がなくなると困るんじゃないの」

■「日本の文化だった」

「来年の3月末から4月の2週目あたりでお店を閉めるということで、もう非常に残念です。僕の若き青春の血が滾っていた時代を過ごした土地ですよ。特に口悦で三井物産の八尋(俊邦)会長と飲み友達になったことは、僕にとって財産です」

 と、噛み締めるように語るのは、これまた常連のみのもんた。次男の事件があった3年前ではない、ある醜聞に巻き込まれていた18年ほど前を振り返り、

「僕は独り、バーで飲んでいた。すると隣には、小さなトランジスタ・ラジオにイヤホンをつないで、巨人戦の中継を聴いているおじいちゃんがいるんですよ。“なにも口悦で野球中継を聴かなくてもいいのにな”と思ったの。すると、そのおじいちゃんがスッと立ち上がってね、“男は黙って弁解無用”と。当時、僕は週刊誌に追いかけられていたから」

 それからも誰なのかわからぬまま店で時々見かけていたが、あるとき女将さんに、「物産の八尋会長よ」と告げられ、その後、家族ぐるみの交際に発展していった。

「口悦がなくなってもまだ数軒は料亭が残りますが、やはり“口が悦ぶ”と書く口悦は、日本の文化だった。国会の先生方も、口悦の門をくぐって総理大臣までのぼりつめているわけだから。守りたいとも思うけど、お母さん(女将)が膝を痛めてお座敷で正座が出来なくなったことも、閉店の大きな要因のひとつ。経営が苦しくなったということではないですからね」(同)

 カカクコム会長側は、口悦のみならず、外堀通りに面する9階建ての建物も買収済み。更に、隣接の駐車場にも触手を伸ばしており、

「そこも買い取ればほぼ正方形の土地になる。口悦の倍にあたる477坪の敷地にして上物を建てる算段でしょう。ここは建蔽(ぺい)率80%、容積率700%まで可能な地域。土地購入などに30億円ほどかけており、結構な規模のビルを建てるはず」(先の関係者)

 歳月と資力という魔法が名門料亭をオフィスビルに化けさせる恰好である。

ワイド特集「神帰月の超常現象」より