25年ぶり優勝! 広島カープOBがおくる地元型セカンドライフ

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 ぶっちぎりでセ・リーグの首位を走る広島カープ。25年ぶりの優勝に話題沸騰中だが、高揚感にひたりたいオールド・ファンは現地を訪れるのも一興か。あちらこちらで往年の名選手たちが店を経営。地元密着のセカンドライフを送っている。

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観客動員もうなぎ上り(※イメージ)

 エース・前田健太が移籍し、下馬評は決して高くなかったカープだが、今年は打撃陣が絶好調。それに引っ張られる形で投手陣も前田の穴を埋めている。

 市内の雑居ビルに構えるバーの一角。そんな後輩たちを見て、

「嬉しくてたまらないね」

 と言うのは、水沼四郎氏(69)。この名より、「江夏の21球」を受けたキャッチャー、の方が通りは良いかもしれない。1979年、広島が初の日本一に輝いた日本シリーズの第7戦9回裏、投手・江夏と共に逆転のピンチを凌いだカープ全盛期の正捕手である。

「83年に引退した後、サラリーマンをいくつかやってみたんです。でもやっぱり辛いんだよね。そんな時にスポンサーがいてお好み焼き屋を勧められたんです。これが案外うまくいったんですが、10年前に店で脳梗塞で倒れちゃった。必死でリハビリをして元に戻って、今はお酒だけの店にしたけど、全国から『江夏の21球』のファンが来るよ」

 そのため、この店「しろう」では当該のVTRを流すこともあるが、水沼氏はその「受けとめられ方」に不満を感じるという。

「9回裏、相手の近鉄がスクイズに失敗するんだけど、みんな江夏がそれに気付いて球を外したと思っている。だけど、実際は先に気付いたのは僕だよ。咄嗟に立ち上がった僕を見て、江夏はそこに投げただけ。何だか納得いかないね」

 別の人生を歩んでも心は未だ勝負師のままのようだ。

■焼き鳥は選手名

 その日本シリーズでセカンドを守っていたのが、トレードマークの口髭で「パンチョ」と親しまれた木下富雄氏(65)。87年の引退後、コーチなどを務めた後、今は居酒屋「カープ鳥きのした」のオーナーを務める。

 不在の本人に代わって、店長である長男が言う。

「もともと店をやっていたのは僕。父は4年前まで解説者をしていたのですが、辞めるに当たり、店をもう一軒出してくれないかと」

 店のウリは焼き鳥。44種類すべてに監督や選手の名前が付いている。

・心臓=緒方監督
・チーズつくね=新井貴浩
・ウズラ玉子肉巻=丸佳浩

 という具合で、客は選手名で注文し、ファン魂を高ぶらせるのだ。

 現在、カープOBが広島県内で営む飲食店は少なくとも10軒近くある。土地柄、鉄板焼きや焼き鳥店が多い中、スナック「メンバーズ高橋」を経営するのは、かつて最多勝などのタイトルを獲った、高橋里志元投手(68)=86年引退=だ。

 ご本人が語る。

「選手晩年は毎年、“今年は首になるかも”とプレッシャーを受けていたので、店を始めたら“顔が優しくなったね”と言われました。何とか30年やってこられましたが、これも広島だから。カープという球団は、選手とファンが近い。現役時代も、勝つと地元の魚屋さんとか農家の方から“おめでとう”って自宅に差し入れが来ましたからね。引退後も絆は切れないんです」

 こんな球団、他にはない、と口を揃えるOBたち。それを見て、今は東京住まいの古葉竹識元監督も言う。

「みんな地元が好きですな。カープの魂は一にも二にもファンへの感謝。野球以外でも恩返ししたい、という気持ちがあるんでしょう」

 現役時代にもらえる年俸は巨人の半分程度。それでも「赤ヘル軍団」の退役兵たちは、たくましく生き続けているというワケだ。

「ワイド特集 きょうびの寓話」より

週刊新潮 2016年9月15日号掲載

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