卓球・水谷も抗議 中国卓球の“違法ラバー”

スポーツ 週刊新潮 2016年9月1日号掲載

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「地味」「根暗」と言われ、マイナースポーツの象徴と蔑まれてきた男子卓球。そのイメージを一変させたのが、水谷隼(27)である。「卓球帝国」中国相手に一歩も引かないプレーは人々を興奮させたが、その裏には「違法ラバー」使用に猛抗議した過去があった。

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芸人似の面立ちだが行動はシリアス

 長らく世界の頂点から引き離されていた日本卓球界。その復活の原点は、00年代頭、若手を挙ってドイツへ留学させたことにある。

 その第1期生で、「卓球教室upty卓球ステーション」代表の坂本竜介氏は言う。

「これによって、世界の最先端の卓球に触れることができ、そこから育った選手が日本代表の中心メンバーとなっていったのです。隼は2期生で、来た時はまだ中2でした。僕らはデュッセルドルフという街のアパートに住み、練習に明け暮れましたが、当時はみな10代で男ばかりだったから自炊なんてできません。近所には飲食店も少なく、毎食イタリアンの店で、3~4ユーロのピザとコーラばかり口にしていたものです」

 そんな食生活がたたってか、水谷は高1の時に、右脛を疲労骨折。半年間も卓球から遠ざかった。骨密度は80歳の老人並みと診断されたという。

「これをキッカケに、隼は、和食中心に、肉や魚だけでなく、野菜もしっかり皿いっぱい食べるようになった」(同)

 帰国後、水谷は17歳で全日本チャンピオンに。そしてその10年後、団体で世界2位、個人で3位のプレーヤーに成長を遂げたのだ。

■抗議のボイコット

 そんな彼の上位に位置するのは、もはや帝国・中国の選手のみ。水谷自身、「打倒中国」を口癖にしているが、

「そこには、単に世界一になりたいという思い以上の決意が感じられます」

 と言うのは、卓球に詳しい、ジャーナリストだ。

「水谷は、卓球界に蔓延する『違法ラバー』に抗議してきた身。その中心は中国選手ですから、対抗意識はものすごく強いのです」

 卓球のラケットは、木製の本体にラバーを接着剤で貼り合せてできている。この際、ラバーに「補助剤」と呼ばれる特殊な溶剤を塗ると、スポンジは膨張し、反発力も増す。

「打つ球のスピードが異常に上がります。また、打った際に金属音に似た音がするので使っているかいないかはすぐにわかるのです」(前出・坂本氏)

 この補助剤には有害物質が含まれており、健康上の配慮から、08年に使用禁止となった。だが、チェック体制が確立していないため、不正の証拠を掴みにくく、日本を除いた世界のほとんどの選手は、未だ陰で溶剤を塗ったまま試合に出ているのが現状という。

「水谷はこの問題を世界で唯一追及し続け、4年前のロンドン五輪の後は、抗議のために国際大会をボイコットすることを表明しました。しかし、中国の力が強い国際卓球連盟は何も動かず、仕方なく5カ月経って試合に戻ったのです」(先のジャーナリスト)

 こうした違法ラバーの実態は今も変わっていない。今年の3月にも、日本卓球協会によって新たな検査方法の導入が提案されたものの、国際連盟はなぜか否決してしまったのである。

 日本卓球協会の植松克之・名誉副会長は言う。

「我々は、今後もこれまでと同じように、補助剤使用を徹底的に排除する動きを進めていく方針です。もちろん水谷も同様でしょう。彼はボイコットを止めた後も、考え方は変わっていませんし、今回メダルを取ったことで、世界の選手の中で、より立場が上がってきた。その発言に注目も集まるはずです」

 ラケットを握っても離した時でも、水谷の中国との“激闘”は続いているのだ。

「ワイド特集 『メダル』の夢の後始末」より