【リオ五輪】メダル候補!トライアスロン「上田藍」が“時給720円受付嬢”時代を語る

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“卓球の愛ちゃん”ほどの知名度はないものの、スポーツ紙記者がこぞってメダル候補に挙げるのが、“トライアスロンの藍ちゃん”こと、上田藍(32)である。身長も福原愛と変わらぬ155センチの小柄なアスリートは、しかし、世界一過酷な競技でトップクラスの実力を誇る。そんな彼女の五輪への道は“時給720円”の受付嬢から始まったのだ。

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メンタルの強さも武器(※イメージ)

「中学時代の藍は、水泳と陸上の練習に励んでいました。ただ、水泳は地域の大会でも優勝できないレベル。陸上では全国中学駅伝で区間賞を獲りましたが、高校に入るとタイムが伸び悩みまして……」

 そう語るのは、父親の守男さん(66)。京都府で手描き友禅の職人をしている両親に育てられた彼女は、高校卒業を前に、進路に頭を悩ませていたという。

「そんな時、私の友人が“泳げて走れるなら、あとは自転車に乗れたらトライアスロンができるやんか”と藍を焚きつけたんです。そのせいもあって、本人も“やりたい”と言い出した。とはいえ、当時は練習環境も整っておらず、進路指導の先生には、“どうやってトライアスロンで生活するんですか!”と呆れられました」

 だが、高校3年生の夏に腕試しで出場した関西圏のジュニア大会で、彼女はいきなり優勝してしまうのだ。

「それから、私と家内は専門誌を読み漁りましてね。千葉にある“稲毛インターナショナルトライアスロンクラブ”を見つけて直接、電話してみたんです」(同)

 クラブの理事長を務める山根英紀コーチによれば、

「正直、電話で聞かされたタイムは興味を惹くものではありませんでした。そこで、選手ではなく一般会員として彼女を迎え入れることにしたんです」

 どうにかトライアスロン選手としての第一歩を踏み出した上田。しかし、その生活ぶりはといえば、

「実家は自営業で裕福ではないので、会費や寮の家賃を払うためにクラブの受付で働きました。最初の時給は720円でしたね」

 苦笑するのは上田本人だ。

■“園遊会”用の着物

「年上の大学生選手と同じ部屋に住んで家賃を折半し、電化製品もその先輩に借りていました。生活費を差し引くと通帳の残高が1000円を切ることも珍しくなかった。確かにギリギリの生活でしたが、練習ができれば幸せだったので」

 オリンピックでは、スイム1・5キロ、バイク40キロ、ラン10キロの計51・5キロのタイムを競うというから、トライアスロンの過酷さは折り紙つき。それでも、持ち前のポジティブ思考で生活苦も、タフな練習も乗り越えた彼女は、北京五輪から3大会連続で日本代表に選ばれ、世界ランキング4位にまで上り詰めた。

 金メダル争いには、身長180センチ近い海外の強豪が立ち塞がるが、“小さな鉄人”はすでに五輪後の準備まで進めているという。

「メダルを獲得した選手が招待される“園遊会”のために、父が新しい着物を仕立ててくれました。黒地に朱色、緑、青で彩られた鳳凰が描かれ、そこに“金”の刺繍が施されているんです。金メダルを獲って天皇皇后両陛下にご挨拶してきなさい、ということ。私と、そして父の夢を叶えるためにも頑張ります!」(同)

 3度目の正直に挑む“藍ちゃん”を相部屋時代の苦労と、家族“愛”が支える。

「特集 秘されたドラマ! 汗と涙の『日の丸』アスリート」より

週刊新潮 2016年8月4日号掲載

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