「もののけ姫」の大ヒットを生んだ名プロデューサー、鈴木敏夫さんが初めて語った“ジブリ流宣伝論”

社会2016年6月28日掲載

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■宣伝の本質とは

 一般消費者を対象にしたビジネスをしている企業にとって、「宣伝」「広告」は常に悩みのタネである。

 予算が無尽蔵にあればテレビCMでも大手紙全面広告でも可能だが、そんな恵まれた企業はない。しかも、以前ほどには大金をかけた広告が効果があるとは限らない。

 そのため、それぞれの企業がSNSなど、新しいツールを活用しようと腐心しているのだが、それもまた常にうまくいくとは限らない。時には炎上して、逆効果になってしまうこともある。

 宣伝というものをどう考えればいいか。

 そんな悩みを抱えるビジネスパーソンのために、スタジオジブリの名プロデューサー、鈴木敏夫氏さんの言葉を紹介してみよう。

 日本映画史上に残る大ヒットを連発した鈴木さんは、新著『ジブリの仲間たち』で、宣伝の本質について、「宣伝とは仲間を増やすこと」だと語っている。同書から、鈴木流「宣伝論」を引用してみよう(以下、「第5章 汗まみれ宣伝論」より)

プロデューサーの鈴木敏夫氏

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『もののけ姫』では、宣伝と興行成績の関係について仮説を立て、それを超えるヒットを実現することができた。『千と千尋の神隠し』では、それを倍の形で再現することにも成功しました。

 幸運に恵まれたことも確かですけど、宣伝というのは、「正しい方向に向かって一所懸命努力をすれば結果は出る」ということも分かってきた。無我夢中でがんばっているうちに経験則を見つける。その経験則を使うことで、何度も同じ結果を再現できるようになる。そういう意味では、宣伝は科学の実験やスポーツと似ている面があるかもしれません。

 ただし、一人ではできない。これも宣伝という仕事の特徴です。

 製作委員会、配給会社、協賛企業……いっしょに汗をかいてくれる仲間がいなければ、どんなにすごいアイデアや仕掛けがあっても、結果は出せません。

 宣伝とは、仲間を増やすことである──必死で駆けずりまわっているうちに、自然とそう考えるようになっていました。

 仲間を増やすというと、抽象的な理念のように聞こえますけど、僕の頭にあったのは、いつも具体的な人の顔と数字でした。

 たとえば、ずっとジブリを応援してくれている日本テレビの映画事業部。そこには奥田誠治さんをはじめ、映画宣伝の仕事に携わるメンバーが十数人います。バラエティーやワイドショーなどの番組スタッフを合わせると、ざっと100人がジブリ映画の宣伝に関わることになる。さらに、日本テレビには系列局が全国に約30あります。制作から営業まで含めて各局100人社員がいるとすると、合わせて3000人。

 同じように、製作委員会の電通、博報堂、ディズニー、三菱商事にも、宣伝に関わる人が100人単位でいる。さらに配給の東宝、宣伝の実務を担当するメイジャー、関連するプロダクション、新聞、出版、ラジオなどのメディア関係者も含めると、軽く1万人ぐらいが、1本の映画の宣伝に携わることになります。

 協賛企業の存在も抜きには語れません。

 たとえば、いまやローソンは全国に1万2000もの店舗があります。各店10人の従業員・アルバイトがいるとして12万人。読売新聞の場合は販売店が6000ありますから、仮に5人ずつとして3万人。JA共済であれば職員が6000人、郵便局であれば全国に20万人もの局員がいる。

 興行の現場の人たちもいます。ジブリ作品の場合、だいたい600スクリーンぐらいで上映しますが、映画館で働く人が10人としても合計6000人。

 彼らもまた大切な仲間です。

 宣材物を作ってくれる業者さん、ポスターを刷ってくれる印刷所の人もそうです。

 それらを合計すると、ざっと40万人もの人々がジブリの映画を応援してくれることになる。彼らが家族や友達といっしょに、たとえば3人で映画館に来てくれるとしたらどうなるか? 120万人の観客動員が見込めるのです。

 一方、試写会では毎回10万人に見せることを目標にやってきました。彼らは最初のお客さんであると同時に、口コミを通じて宣伝マンにもなってくれます。

■歩いて回って仲間を増やす

 僕はそうやって具体的な数字を積み上げながら、宣伝と観客動員というものを考えてきたんです。

 宣伝といえばマスコミに広告を出すこと。そう考えている人も多いと思いますけど、それは手段のひとつにすぎない。宣伝の本質というのは、歩いてまわって仲間を一人ひとり増やしていく作業なんです。だから、たくさんの企業を巻き込み、全国キャンペーンにも行く。すべて具体的で地道な努力の積み重ね、どこまでもリアリズムの世界です。

 奥田さんからは、あるときこんなことを言われました。

「鈴木さんの下には1万人の社員がいるようなものですよね」

 客観的に見るとそういう面もあるのかもしれませんけど、僕にとっては社員でも部下でもなく、やっぱり仲間なんです。

 大勢でひとつの目的に向かっていくのって楽しいじゃないですか。宣伝の仕事というのは、単なるビジネスじゃなくて、みんなで映画という神輿をかついで歩きまわるお祭りのようなものだと思うんです。

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 その「仲間」たちと、具体的にどんなことをやってきたか。『ジブリの仲間たち』には、これまでのジブリの知恵、ノウハウが惜しげもなく公開されている。

デイリー新潮編集部