「クローズアップ現代」に生きる「国谷さんのDNA」から何を学ぶか 梶原しげるさんの解説

社会2016年6月6日掲載

  • 共有
  • ブックマーク

■国谷さんが口にしない言葉とは

 この3月、「クローズアップ現代」(以下「クロ現」)からキャスターの国谷裕子さんが降板し、同番組は「クローズアップ現代+」(以下「クロ現+」)にリニューアルされた。国谷さんがいなくなったことを惜しむ声も強いが、フリーアナウンサーの梶原しげるさんは、「クロ現+」にも「国谷さんのDNA」が継承されている、と分析する。梶原さんは、新著『不適切な日本語』の中で、「国谷キャスターが絶対に口にしない言葉とは」という章を設けるほど、同番組の熱心な視聴者でもある。

 しゃべりのプロでもある梶原さんに、国谷さんの「話す技術」とそこから学べる教訓について語ってもらった。

 ***

 長年、「クロ現」を見ていて気づいたのは、国谷さんが絶対に言わない言葉がある、ということでした。まあ、「絶対に」といっても完全に全部見ているわけではないのですが、私が見ている限りは聞くことがなかったのは事実です。

フリーアナウンサーの梶原しげるさん

 その言葉とは、
「よろしく御願いします」
 です。
 ご覧になっていた方ならおわかりでしょうが、あの番組はこんな風に始まります。

 まず、オープニングでその日のテーマのアバン映像(予告編)が切迫感あふれる音楽・ナレーションとともに流れます。そしてテーマ音楽が終わると、画面はスタジオの国谷さんのワンショットに。

「今晩は。クローズアップ現代です。ご覧いただいたように○○が深刻な問題となっています」
 という調子でテーマを伝えたあとに国谷さんがゲストを紹介します。
「そこで今日は○○がご専門の△さんにスタジオにお越しいただきました」

 ポイントはこの次です。

 普通の司会者ならば、ここでゲストに向かい、
「よろしく御願いします」
 という常套句をつい添えてしまいます。
 私もついそうしてしまいがちです。
 しかし国谷さんは違いました。
「具体的にどんな被害が目立っているんですか?」
 こんな風に、いきなり本論から話し始めるのが常だったのです。

 このテンポ感に、私は毎回、しびれていました。
 ついつい惰性で口にしたくなる常套句を省くことで、独特のスピード感が生じ、見る者を引きこんでいたのです。

■「クロ現+」に残されたDNA

「それって国谷さんじゃなくて、制作側の演出の意向なんじゃないの?」
 と思われるかもしれませんが、そうではなかったと私は見ています。
 というのも、国谷さんがお休みの時に出てきたピンチヒッターの方々はみな、
「よろしく御願いします」
 と口にしていたのです。

 その国谷さんが去ることになり、どうなるのか、ファンとしては心配していたのですが、新しくなった「クロ現+」を見て安心しました。

 オープニングのあと、スタジオに戻った時に、キャスターがゲストに対して、
「△○さんも、介護問題ではかなり苦労されたそうですが……」
 という風に話しかけるところから始まっていたのです。

 番組に国谷さんのDNAが残されており、独特のテンポ感は継承されている、と感じました。
「そんな細かいこと、業界の話だろ。どーでもいいわ」
 と思われるかもしれません。

 実際、私がこの「発見」について口にしても、別に周囲から「俺もそう思っていた!」といった賛同を得たりすることはありませんでした。

 ただ、この「よろしく御願いします」問題から、常套句というものについて考えてみるのも悪くないのではないか、と個人的には思います。

 私たちはつい、常套句、紋切型の言葉を使いがちです。

 日常会話や手紙、メールなどはほとんどそれで済んでしまう、とも言えます。

 特に、予測変換といった便利な機能が発達した現代においては、書くほうは頭を使わなくても、一応の返事を書け、やり取りもできるようになってきました。

 しかし、それだけでは相手にこちらの熱意や感情を伝えることは難しいこともあります。通り一遍の表現では、相手の気持ちを揺さぶったり、特別な関心を惹くことはできないからです。

 常套句は「不適切な日本語」ではなく、むしろ「正しい日本語」なのですが、時と場合によっては「心に届かない日本語」にはなる、ということではないでしょうか。

梶原しげる/デイリー新潮編集部