舛添都知事の「不適切な会見」で見えた新たなテクニック 梶原しげるさんの分析

政治 2016年5月25日掲載

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■止まない批判

 頭を下げる時間も回数も増えた。

 口調も柔らかくなった。

 それでも舛添要一都知事への批判は止まない。20日に開かれた会見では「第三者」を連発したことが不興を買っている。

 もっとも、報道陣が舛添氏を攻めきれなかったというのもまた事実だろう。会見では決定的な事実や発言を引き出すことができていない。

 なぜそうなるのか。

 新著『不適切な日本語』を刊行したばかりのフリーアナウンサーの梶原しげるさんに、「なぜ都知事会見は不適切な結果になるのか」を分析してもらったところ、都知事の新たな「テクニック」が判明した。

フリーアナウンサーで東京成徳大学客員教授の梶原しげるさん

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■名前を呼びかける

 舛添さんが会見において、「極端な例を持ち出して相手の虚をつく」という話法を多用していることは前回お話ししました。

「黒なのでは?」と聞かれたら、「完全な白なんてありえないでしょう!」と言い返すという話法です。

 それ以外にも、会見を見ていると、新たに2つ、「うまいなあ」と思うところがありました。

 どちらも編集されたテレビニュースや新聞紙面では伝わりにくいところですが、会見の生中継を見るとわかります。

 まずは「相手の名前を呼ぶ」という点です。

 会見の際、記者は所属先と名前を名乗ってから質問することになっているようです。

「○○テレビの●△です」

 これに対して、舛添さんが、

「●△さんですね」

 と答える場面がよく見られました。

 人は自分の名前を呼ばれると、気分が良くなります。『人を動かす』などの著作で知られるD・カーネギーは、「名前は当人にとって最も心地よい響きの言葉である」旨を述べています。

 これを最も上手に用いた政治家が田中角栄さんでした。角栄さんは一度会った人の名前を忘れない、という逸話は有名です。ポイントは単に忘れなかっただけではなくて、次に会った時に「おお、●×さん!」という具合に呼びかけたことでした。

 これが人心掌握に大いに役立ったことは言うまでもありません。

 舛添さんに、そういう下心があるのかどうかはわかりませんが、結果として相手の気勢をそぐのに、名前の呼びかけは役立っていた気がします。

■「初めての人」を優先する

 もっとも、今回追及する側の報道陣はそれくらいでは懐柔されていません。かなり厳しい口調での質問が続きました。

 それでも追いつめきれなかったのはなぜでしょうか。

 ここで、とても有効だったのが、「まだ質問をしていない人から質問を募る」という会見の進行方法です。

 ニュースで見ると、ほとんどカットされているのですが、舛添さんは、会見の進行役を自ら務めたうえで、「まだ質問されていない方は?初めての人は?」と聞いて、次の質問者を指すようにしていました。

 誰か特定の人が延々と質問するのでは不公平ですから、この進行方法そのものに問題はないようにも見えます。

 しかし、この進め方によって、どうしても質問はリピートが多くなり、また「浅い」質問が増える可能性が高くなるのです。

 真面目な記者や経験の浅い記者は、自ら用意した質問リストの上から質問をぶつけます。

 それに対して、舛添さんは「先ほどから申し上げているように、詳細は第三者の調査を待って……」と同じように答えます。これが繰り返されたからこそ、同じ言葉が何十回も使われることになったのです。

 また、多くのテレビ番組は、「質問をしているウチの○○レポーター(または局アナ)」という画を流したいと考えています。その演出を考えた場合、○○レポーターは、他の記者の質問を引き継いで、さらに深い質問をする、ということがやりづらくなります。

 そのため自然と、「都民が納得すると思いますか?」といった総論的な質問が増えがちです。

 つまり「初めての人」を順番に当てていくという方法で進めると、答える側は、とてもやりやすくなるのです。

「第三者」という言葉を連発したことについて批判をするメディアが多くありましたが、その状況はメディアが作ったという面もあるのではないでしょうか。

■仕切り役が必要か

 昔、芸能人の記者会見の場では、こうしたことを避けるために「仕切り役」が前もって決められることがありました。梨元勝さんや、鬼沢慶一さんといった大物レポーターが最前線にいた頃には、「今日の仕切りは梨サンで」といった「すり合わせ」が行なわれ、その人が主導して質問をしていったのです。

 これによって、質問に流れが生じ、深いツッコミを繰り出すことができていたような気がします。

 こうしたやり方を「談合だ!」と思う方もいることでしょう。実際に、そうした方法は公平性に欠けるという面はありますし、一歩間違えれば、馴れ合いにもつながります。

 だからこそ、最近の会見は「オープン」なものになることが多く、都知事会見も多種多様なメディアが質問できるようになっています。

 それ自体は決して悪い事ではありませんし、また「初めての人」を指し続ける舛添さんに、「浅い質問を増やしてやるぞ」といった悪意があるとまでは言い切れません。

 しかし、結果として「初めての人」からの質問が続くという状況は、舛添さんには有利に働いていたのは間違いありません。

 もしも報道陣が団結して、質問の流れを作ったら、答える側はかなり大変かもしれませんね。

梶原しげる/デイリー新潮編集部