人間が空から降ってきた ロンドンで頻発する墜落死の謎に迫る

国際2016年6月1日掲載

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空から人が降ってくる!?

 5月8日甲子園球場で行われた阪神―ヤクルト戦のさなか、外野グラウンド上に魚が降ってきた。驚いた外野手は試合を中断させた。また2009年には石川県七尾市で100匹以上のオタマジャクシが降った。メディアでも大きく取り上げられ話題になった。古来より動物や魚が空から降る現象は「ファフロツキーズ」と呼ばれ世界各地でおこっていた。

 しかし、ロンドンでは事情が違う。人間が降ってくるのだ。それも頻繁に。げんに直近では4月末にも「デイリー・ミラー」や「ザ・サン」など、いくつかの英国メディアに次のような記事が掲載された。

「ロンドンのオフィスビルの屋上で頭のない死体が発見される。1400フィート(427メートル)の高さから落ちてきて、エアコンの室外機に激突、バラバラに!」

 種明かしをすると、ビルの上空はロンドン・ヒースロー空港への着陸ルートとなっており、ちょうどこの辺りを通過するタイミングで、主脚を納めた旅客機下部の格納庫が開くのだ。死体は密航を試みた29歳のモザンビーク人青年のものだったという。南アフリカ・ヨハネスブルクの空港でロンドン行きの英国航空機に忍び込んだものの、寒さと疲労のために意識を失い、落下したものとみられる。

 実は、同じ飛行機でもう一人モザンビーク人が密航していたのだが、その人物は意識不明の重体に陥りながらも、一命を取り留め、健康を回復した後に行方をくらませたというから驚かされる。世界最高峰のエベレストを超える上空10000メートルという高度では、空気が薄く呼吸することも困難な上、温度はマイナス60度まで下がることもあるという。そんな極限状態に長時間、身を置きながら生還を果たしたというのは、まさに“奇跡”のようにも思える。

 しかし、こんなデータもある。

 2012年に英国BBC放送が伝えたところによると、「1947年以降、旅客機の主脚格納部に潜んで不法入国をしようとしたケースは、アメリカ連邦航空局(FAA)が把握しているだけでも全世界で96人、亡くなったのはそのうち73人」──。

 つまり、飛行機による密航を試みた者の、4分の1がこの無謀としか思えない企てを成功させているわけだ。逆に言えば4分の3は失敗、そのうちの何割かが“空から降ってくる”ことになる。

 彼らはなぜそこまでして密航を企てるのだろうか。『空から降ってきた男──アフリカ「奴隷社会」の悲劇』(新潮社刊)の著者小倉孝保氏はその理由をこう語る。

「たとえば、アフリカ・モザンビークの田舎で農業や漁業をしていては収入は不安定で、微々たるものです。それが首都マプトに出ると、収入は月50ドルになり、隣国の南アフリカでは週50ドルに増える。ロンドンをはじめとする欧州の大都市では50ドルは日給にもならないでしょう。ロンドンのレストランで働けば、たった1日でマプトでの月給分を稼ぐことができるのです。

 アフリカの人々はヨーロッパの豊かさを知っています。アフリカでは今、どんな小さな村でも英国のサッカー・プレミアリーグを観ている。プレミアで活躍する選手にはアフリカ出身者が多い。電気の届いていない村でさえ、衛星放送受信用のパラボラアンテナがある。そして、バッテリーで衛星テレビを観る。そのテレビを観ていると、大企業のCMを通じて、先進国の生活に触れることができる。アフリカ人にとって、欧州はすぐそこにある。そして、その欧州はいつも明るく輝いているんです」

 小倉氏は同書の中で2012年9月にロンドン郊外の住宅地に「降ってきた男」の身元を辿り、アフリカ社会の現状につきあたる事になる。そして、弱肉強食の「新自由主義」に蹂躙され、想像を絶する格差が広がるアフリカから抜け出そうとした一人の青年の悲劇的なストーリーが浮かび上がってくる。人が空から降ってくる理由、それがまさか「格差」だったとは、いやはや。

デイリー新潮編集部