ゴミ屋敷になりやすい職業4割はこういう人たち〈清掃人は見た! あなたの近所の隠れた「汚部屋」(2)〉

社会週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

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 ノンフィクション・ライターの福田ますみさんが、現代社会の陰で増殖中という「汚部屋(おべや)」の実態を描く。前回は、“壁という壁にゴキブリがぎっしり”なゴミマンションの様子や、“男性より女性の方が多め”という依頼者の実状を、清掃業者の証言から紹介した。

 ***

 清掃を依頼してくるのは一体どのような人たちなのか。その職業には、ある傾向が見られるようだ。

「ナースがダントツに多いな」

 と言うのは、ゴミ屋敷清掃と遺品整理の代行業「孫の手」の佐々木久史社長である。

「ドクターも多い。介護士さん、ケアマネさんなど介護関係も少なくない。依頼のうち、4割ぐらいはこういう職業の人たちだね」

 彼ら/彼女らを観察し、佐々木社長はある“仮説”にたどり着いたという。

「みんな、人のお世話をする大変な仕事でしょ。それで神経をすり減らすことも多いだろうから、エネルギーを吸い取られて自分の世話をしなくなってしまうのかもしれない」

危険度1位はナース

 船橋市に本社を置く「エコフレンドリー」の代表取締役・坂田栄昭さんも、「看護師が圧倒的に多い」と言う。

 彼の“分析”はこうだ。

「一番の理由は夜勤ですよ。昼夜逆転するから、まずゴミを捨てられない。料理を作るのもおっくうになってコンビニ弁当ばかりになる。夜のゴールデンタイムのテレビ番組を見られないから、やたらDVDがたまる。ゴミがたまる条件がそろってしまっているんです」

 14年前、引っ越し業の立ち上げと同時にゴミ屋敷の清掃代行も行うようになった「クリーンエンジェル」代表者Y氏は、別の傾向を見ている。

「僕の中では、医者や国家公務員、看護師や教師、それにいわゆる『士業』、弁護士とか公認会計士、司法書士なんかがめちゃくちゃ多いっていう印象があるね」

 外では常に緊張を強いられる人々である。部屋では思い切りだらけた生活をして、精神のバランスを保っているのだろうか。

 社会的地位の高い人たちのことだから、周囲の部屋には、汚部屋の清掃を頼んだなんてことは絶対に知られたくない。そこで、

「そういう客のために、うちではゴミをゴミ袋ではなく、すべて段ボールに梱包して、引っ越し業者を装って運び出している。そこまでして、大体平均は30万~40万ってところかな。100万を超えることはそれほどない」(同)

 その数少ないケース、ゴミの総量が4トントラックいっぱいになり、100万円を請求した相手は女教師だった。Y氏はその教師から1年後に礼状をもらった。そこにはこう記されていた。

「あの時の100万円は私にとっては痛手でした。でもこれは、自分自身への社会的制裁だと思って納得することにしました。ありがとうございました」

 これだけの値段がかかるものだから、家計に余裕がある人しか、業者に清掃は頼めない。裏を返せば、ここに紹介している人たちは氷山の一角。世間には、先立つものがないために、変わらずゴミの山に埋もれて暮らさざるをえない人がゴマンといるということだ。

■戸棚の中、ベッドの下の引き出し…ペットボトルが隙間なくぎっしり詰め込まれ

ゴミのほとんどは、雑誌、本、新聞、ビールの空き缶、ペットボトル、コンビニ弁当の殻、衣類

 現代人がゴミをためる理由は、実に多種多様だ。

 多忙で物理的に掃除をする暇さえない場合。新社会人が仕事に慣れずストレスをためこみ、掃除をする気力もない場合。ADHD(注意欠陥多動性障害)など、そもそも片付けられない病を持つ人も相当数いる。引っ越してきて、その地域の分別ゴミの出し方がわからない。間違えてゴミを出し叱られたので、以後一切ゴミを出さなくなったケース。「辛い出来事」が契機となる場合もある。失恋や離婚、家族の死などで抑うつ状態になり、何もする気力がなくなり、気がつくと、ひとりではどうにもならないほどのゴミをためこんでいる。

 次のケースは、そうした複合要因を含んでいそうだ。

 前出の「エコフレンドリー」の坂田さんが、某大企業の独身寮の寮長からの依頼で、ある部屋に踏み込んだ時のこと。強烈なアンモニア臭のもとをたどって収納や冷蔵庫を開けた途端、異様な光景が飛び込んできた。

「戸棚の中、ベッドの下の引き出し、冷蔵庫、そのすべてに、ペットボトルが整然と隙間なくぎっしり詰め込まれていたんです。2リットル入りのボトルが約500本。つまり1トンを、この部屋の主はため込んでいたんです」

「いったいなぜ、こんなことしたの?」

 寮長が本人を問い詰めると、その男性は顔をゆがめうなだれるだけだったという。

「なんでも、仕事でミスをして引きこもりのようになっちゃったそうです。あいにく、その寮には各部屋にトイレがなかった。それで、ペットボトルにやっていたらしいんです。その後本人は会社を欠勤、寮からも一時、失踪していたようです」(坂田さん)

 ***

(3)へつづく
(1)はこちら

「特別読物 食事中の閲覧注意!『ゴミ屋敷』清掃人は見た! あなたの近所の隠れた『汚部屋』――福田ますみ(ノンフィクション・ライター)」より

福田ますみ(ふくだ・ますみ)
1956年、横浜市生まれ。立教大学社会学部卒業後、専門誌、編集プロダクション勤務を経てフリーに。2007年、『でっちあげ』で新潮ドキュメント賞受賞。今年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞受賞作を書籍化した近刊『モンスターマザー』も話題となっている。