“グループの天皇”が語った三菱自動車不正データ問題 「燃費が良いから買う人なんていない」

社会週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

  • 共有
  • ブックマーク

 リコール隠し問題などで陥った倒産の危機を脱したばかりなのに、今度は「燃費データの不正操作問題」が発覚した三菱自動車。が、相川哲郎社長の実父で「三菱グループの天皇」と恐れられた相川賢太郎氏はこう訴えるのだ。「燃費なんて誰も気にしていない!」――。

 ***

三菱自動車本社

「三菱自動車が潰れる? そんなことはないですよ。潰れないですし、それは絶対に潰しちゃイカンですよ。ルール違反を犯したわけですから、潔く処罰は受けなイカン。ただ、従業員を傷めないようにですね。従業員は一生懸命やっていますから。会社のためと思ったのが裏目に出たわけですよ。浅はかだけれども、心根は悪いわけではない」

 淡々とした口調でそう語るのは、三菱重工相談役の相川賢太郎氏(88)だ。三菱重工の社長を1989年から3期6年、会長を2期4年務め、今も三菱グループ全体に睨みを利かせる氏は、目下、「燃費データ不正操作問題」に揺れる三菱自動車工業の相川哲郎社長(62)の実父でもある。

「会社が潰れたら3万人の従業員が路頭に迷うことになるんですから、そんなに簡単に潰せるもんじゃないんです。三菱グループってのは、そんなことは絶対にしないですよ。(三菱財閥の創業者の)岩崎弥太郎の考え方はですね、都合の悪い者は切り捨てる、ということではないんです。皆で助け合ってやっていこうというのが、三菱グループ29社の精神ですから」

 哲郎氏の前任で、現在は会長の益子修氏(67)は、三菱自動車を立てなおした剛腕ぶりから“益子天皇”と呼ばれることもあった。が、こちらの賢太郎氏はそれ以上の人物であるようで、

「徹底した合理化で“ミスターコストダウン”と称された三菱重工の中興の祖。“三菱グループの天皇”とも呼ばれた。同じ天皇でも、益子氏とは格も実績も何もかもが段違い。息子の哲郎氏は天皇の息子ということで、社内では“プリンス”とか“皇太子”などと呼ばれていました」(三菱グループ関係者)

「相川天皇」は、息子が社長を務める会社が引き起こした今回の不祥事をどう考えているのか。縦横無尽に語り尽くした彼の発言、否、放言をご紹介する前に、まずは今回の問題についてざっと説明しておきたい。

■会見を行った“皇太子”

 三菱自動車の相川哲郎社長らが突如として記者会見を行ったのは、4月20日のことである。

「燃費を実際より良く見せるため不正な操作をし、国内法規と違う方法をしていたことが分かりました」

 と、会見で語った相川社長。「不正な操作」が行われていたことが発覚したのは、三菱自動車が生産、販売してきたeKワゴン、eKスペース計15万7000台、三菱が生産し、日産自動車が販売したデイズ、デイズルークス計46万8000台である。

「三菱と日産が軽自動車開発のための合弁会社を設立したのは11年。今回問題が発覚した車種の生産が始まったのは13年でした」

 と、全国紙の経済部デスクが解説する。

「問題が発覚するきっかけになったのは、自社で次期型軽自動車を開発するために現行車種のデータを日産が三菱から取り寄せたこと。それによって、国に届け出ている走行抵抗の値と実際の値に隔たりがあることが分かり、日産が三菱に通告した。三菱はそれを受けて社内調査を行い、先日の会見で不正を認めるに至ったわけです」

 三菱自動車が手を染めた不正とは、如何なるものだったのか。

「車を走らせる際には、空気の抵抗やタイヤと路面の摩擦による走行抵抗がかかる。例えば、バスのような大型車ほど走行抵抗は大きくなりますし、軽い小型車ほど小さくなる。メーカーが新しい車を発売する前には何度も走行試験を行い、この走行抵抗などの値を国交省の外郭団体に申告します。それをもとに外郭団体は燃費性能などを試験し、その数字がカタログなどに記されるわけです」

 と、さる自動車評論家。

「走行抵抗の値は、何度も測った上でその中央値を申告することになっているのですが、三菱は下限に近い値を申告。走行抵抗の値が小さくなればなるほど燃費の数字は良くなりますから、意図的に小さい値を申告したのでしょう。カタログに記された燃費は実際より5~10%良くなっていたと見られ、燃費を気にする購入者を騙した格好になる」€

 先の経済部デスクが言う。

「不正の背景には、燃費を向上させないと販売競争に勝てない、という焦りやプレッシャーがあったと見られています。また、問題になっているeKワゴンの初代モデルの開発者が相川社長だったことから、“社長が開発した車の性能が低いのはマズイ”との考えが現場に働いたのではないか、という見方も出ている」

 会見に臨んだ相川社長は、

「燃費の数字を良く見せ意図的に操作したのは確かだ。経営責任を感じている」

 と、平身低頭の態で謝罪していたが、社長の実父で「三菱グループの天皇」たる賢太郎氏は、三菱自動車が引き起こした燃費データ不正問題についてどのように語るのか。

■「コマーシャルだから」

 まずは率直に彼に質してみると、

「あれはコマーシャルだから。効くのか効かないのか分からないけれど、多少効けばいいというような気持ちが薬屋にあるのと同じでね。自動車も“まあ(リッター)30キロくらい走れば良いんじゃなかろうか”という軽い気持ちで出したんじゃないか、と僕は想像していますけどね」

 独特の表現をされるためにいささか分かりにくいのだが、彼の言う「コマーシャル」とは、カタログなどに記された公表燃費性能のこと。それを良く見せるために「軽い気持ち」で不正を働いた、というのが相川天皇の見立てである。

「買うほうもね、あんなもの(公表燃費)を頼りに買ってるんじゃないわけ。商売する人は別だけれど、自動車に乗る人はそんなにガソリンは気にしていない。eKに乗るような人は、税金が安くなるから乗っているんであってね。燃費というのを金科玉条のようにして、その燃費が良いから買うなんて人はいないわけ。自動車は、その自動車が良いから買うんであってね。まあ、そういう考えを従業員が持っとったのかな、と。それで軽い気持ちで、コマーシャルは魅力的に書けばいい、くらいの気持ちでやったんじゃないか。罪悪感は全くなく、“まあ良さげにしとけ”ということでやったに違いない」

■「そんなに騒いでないと……」

 燃費性能など誰も気にしていない。繰り返しそう主張されるのだが、権力の極致を体験してしまうと、下々の声がかくも耳に入らなくなってしまうのか。また、

「実際に(対象車種に)乗っとる人は、そんなに騒いでないと思うんだけどね」

 との発言から推察するに、新聞などの報道にもあまり触れておられないご様子である。問題発覚後、「騙された」「ごまかされた」という購入者の怒りの声は、幾度となく新聞やテレビで紹介されているのだから。

「僕はエンジニアが本気になって騙そうと思ってやったことではないと思っている。だけど、認識がちょっと遅れておるな。やっぱり世の中が段々変わってきていますから。会社としては良くないよね。規則があるんだから。コンプライアンス、コンプライアンスと言っとるんだからね」

「特集 三菱自動車『相川哲郎』社長の実父『三菱グループの天皇』かく語りき『自動車は潰さない! 燃費なんて誰も気にしていない!』」より