北海道「天売島」 ゴールデンウイークに目指す「日本の秘島」7選(1)

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 海外旅行でも温泉旅行でもない。たまにはゴールデンウイークだから島を目指すというのはどうだろうか。島旅行が何より楽しいのは、思い込みを覆し、新鮮な驚きと楽しみを与えてくれるからだという。旅行作家の斎藤潤氏がお勧めする「日本の秘島」7選――。

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 まず初めに、日本にはいくつ島があるか御存知ですか? 総数としては、日本統計年鑑で採用している6852島(海岸線が100メートル以上ある陸地)がもっともよく引き合いに出される数字ですが、定義によってはもっと増えもすれば減りもする。このうち人が住んでいるのは418島です。

 私は約420の有人島の中で、民間人が上陸できない南鳥島(小笠原諸島)を除き全てを訪れました。自分の胸のうちでは、1日で全部歩けるくらいの小島が本当の島です。小島は、島と外の世界とがはっきり分かれている。2日もあれば小島というミクロコスモスを理解できたような妄想に浸れる。そんな満足感があるんです。今回は、長いゴールデンウイークだからこそ、都会の喧騒を離れ、訪ね歩くべき日本の「秘島」7選をご紹介しましょう。

■野鳥の楽園 天売島

 日本最北の島々といえば、北海道の礼文島と利尻島が有名ですが、まずお勧めしたいのが日本海に浮かぶ天売島(てうりとう)(面積5・5平方キロ)。札幌から高速バスで約3時間かけて羽幌町へ。更に高速船で1時間で到着します。

海鳥の島として世界的に有名

 この島の人口は300人ほど。知名度はそれほどではありませんが、海鳥の島として世界的に有名で、絶滅危惧種のオロロン鳥やウトウ(写真(1))などが舞う野鳥の楽園です。連休が始まる4月末から8月までの繁殖期には、約100万羽の水鳥が飛来します。

[写真(1)]ウトウ

 島の西側は季節風と日本海の外波に洗われているため、荒々しい岩肌の海岸線に海鳥が群れる光景は絶景そのものです。

 また島の南西端の海霧が漂う標高128メートルにある赤岩展望台に上れば、雲の中にいるような気分を味わえます。刻一刻と変幻する海霧の中に佇んでいると、突然、バサバサッという大きな羽音に驚かされます。黄昏時ともなれば、青い闇に黒い鳥の影が突然湧き、びゅっびゅっと殴り付けるように降ってくる。横から突っ込んでくることもあれば、一瞬途切れた後、雨あられのように降ってくることもあります。

 その正体はウトウです。大きさは鳩くらいですが、ツバメのように速い。ウトウは、一夫一婦制の鳥で、天売には春先から8月上旬くらいまで滞在し1羽の子を育てます。海岸の地面は草も生えていないボコボコの穴だらけで、遺跡の発掘現場のようです。これこそがウトウの巣です。夫婦で協力して巣を掘り、そこに卵を産んで子育てします。イカナゴ、ニシンなどの餌を獲るために夜明け前に飛び立ち、日没後に戻って来る。あれだけたくさん穴が空いているのによく自分の巣を見分けられますね。獲った餌はカモメに横取りされたり、ウトウ同士で奪い合っている場面に出くわしたこともあります。皆、生きるのに必死。そんな姿を観て、再びどこからともなく礫(つぶて)のように降ってくるウトウの羽音に耳を傾けながらその影を追うと、何とも言いようのない切なさを感じます。

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(2)へつづく

「特別読物 ゴールデンウイークだから『日本の秘島』7選――斎藤潤(旅行作家)」より

斎藤潤(さいとう・じゅん)
1954年、岩手県生まれ。東京大学文学部卒業。学生時代は島と僻地を巡る旅に明け暮れる。JTBで月刊誌「旅」や旅行情報誌の編集を経てフリーに。『日本《島旅》紀行』など島に関する著書多数。

週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

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