モンスターマザーその手口 マスコミ、人権派弁護士、精神科医を取り込んで 〈学校を破壊するモンスターマザーの傾向と対策(3)〉

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

教師も毅然として戦うべき

 筑波大学准教授の星野豊氏は、『先生のための学校トラブル相談所』(学事出版)などの著書があり、法律を踏まえた学校トラブルの解決法に詳しい。

 その星野氏が言う。

「担任などに対する理不尽な個人攻撃に対しては、学校として直ちにやめるよう強く申し入れることが必要です。それでも攻撃が続くようなら、法的処置を辞さない態度を明確にすべきです」

 実際に法的手段に訴えることは、教師にとっていまだに抵抗感が強いが、

「不当な言いがかりに対しては、教師も毅然として闘うべきだと思います。この丸子実業の教師たちの提訴も、学校側の正しさを明らかにするために、当然の選択だったと言えます」(同)

教師が保護者を訴えたケース

 星野准教授によれば、丸子実業の他に、教師が保護者を訴えた例は2件ある。

 08年、神奈川県大和市の小学校で女性教諭が、授業中にカードゲームをして遊んでいた女児の背を軽く叩いて注意をした。この女児は平素から、唾を吐いたり私語が多いなど、問題行動が目立っていた。

 すると女児の両親は、教育委員会に押しかけ、子供が体罰や差別を受けたと大声で長時間抗議をした。そして、教諭への懲戒処分と担任の交代、他のクラスへの子供の編入を要求したが、教育委員会に拒否される。

 これに立腹した両親は、学校に出かけて、子供の机を勝手に隣のクラスの前に移動させた。教諭がこれを元に戻したところ、激高した母親が教室に乱入して教諭の頭を殴り、全治3週間のけがを負わせたのである。

 教諭は定年退職後に両親を提訴。保護者側に100万円の支払いを命じる判決が下り、教諭側の勝訴となった。

 10年には、埼玉県行田市の小学校のこれも女性教諭が、自分に対する罵詈雑言を、数カ月にわたって延々と連絡帳に書き続けた保護者を、名誉毀損で訴えた。しかし、教論には守秘義務があり、不特定多数の目に触れる性質のものではないため、この書き込みによって公然と名誉が毀損されたとはいえないとして、請求は棄却された。

「最近は、学校というより、特定の教師個人を執拗に攻撃する保護者が増えてきており、特に若手の教師の受ける精神的被害が深刻なものとなっています。こうした場合、学校は、標的となった教師を孤立させることなく、組織全体で対処することが肝心です。そして、問題となった出来事の詳細な記録をとり、情報を共有する。噂や報道に惑わされずに、教師同士が互いを信頼することも大切です」(同)

 かつて教師は聖職者と呼ばれ、「絶対」の存在であった。しかし、今や、保護者が「神様」で、身を守るために教師が法的手段にまで出なければならない時代。教育現場が抱える苦悩の深さには、慄然とせざるをえないのである。

福田ますみ(ふくだ・ますみ)
1956年、横浜市生まれ。立教大学社会学部卒業後、専門誌、編集プロダクション勤務を経てフリーに。2007年、『でっちあげ』で新潮ドキュメント賞受賞。今年3月には「新潮45」連載の「モンスターマザー 長野・丸子実業高校『いじめ自殺』でっちあげ事件」で、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した。

週刊新潮 2016年4月7日号掲載

「特別読物 学校を破壊する『モンスターマザー』の傾向と対策――福田ますみ(ノンフィクション・ライター)」より

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。