弁護士が1億円の所得隠しでも注意で済ませる弁護士会を信用できるか

社会週刊新潮 2016年3月31日号掲載

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日本弁護士連合会

 弁護士が胸に付けているバッジの真ん中には「天秤」の模様が刻まれている。公正と平等を意味したものだが、弁護士会という「村」の中ではやっぱり建前に過ぎなかった。巨額の所得隠しを国税から問題にされても、大甘の処分で済ませてしまうのだから。

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 愛知県弁護士会に所属する長谷川鉱治弁護士(57)に懲戒処分が下されたのは3月4日のこと。

 国税担当の記者が言う。

「処分の対象になったのは1億1000万円もの所得隠しです。事件が発覚したのは2013年、長谷川氏が4年間にわたって受け取っていた顧問料などを申告せず、さらに経費の水増しを行っていたことを名古屋国税局から指摘されたのです。所得隠しは、彼の顧問税理士の脱税事件からイモヅル式に判明したのですが、長谷川氏はその税理士の弁護人も務めており、自分にも累が及ぶことを察知。慌てて翌年度の納税の際に隠していた分を上乗せして申告したものの、国税の眼はごまかせませんでした」

 この一件は全国紙でも報じられたが、それというのも長谷川弁護士が、脱税事件を手がけた元検事だったからだ。

「長谷川氏は名古屋地検特捜部の元検事で、97年に宮本慎也選手などが関わったプロ野球選手の脱税事件を担当していました(この事件で宮本選手は懲役10月、執行猶予3年)。そして03年に検察庁を辞めると弁護士を開業し、数字に強い“ヤメ検弁護士”と評判だったのです」(同)

 結局、長谷川弁護士は、重加算税などを支払うことになったものの、検察は立件を見送る。だが、天網恢恢疎にして漏らさず。さっそく、市民団体などから懲戒請求が出された。

■店晒しにされた請求

 申し立てを行ったのは、悪徳弁護士などを監視する団体「弁護士自治ウォッチャー」で、そのメンバーの斎藤浩三氏が言う。

「脱税事件を手がけたヤメ検が所得隠しとは悪質でしょう。そこで14年4月に愛知県弁護士会に懲戒請求を出したのです。請求は、まず弁護士会の綱紀委員会にかけられ、次に懲戒委員会が審議するのですが、なぜか店晒しのまま。このままではウヤムヤになると考え、上部組織の日弁連に3度にわたって申し立てを行ったところ、2年待たされてやっと懲戒委員会の議決の通知が届いたのです」

 結果は「戒告」。これで長谷川弁護士に相応のペナルティが下されるのかと思ったら、4段階あるうちの最も軽い処分なのだという。

「懲戒処分は一番重い順から『除名』、『退会命令』、『業務停止』がありますが、『戒告』は官報に載るだけで、そのまま弁護士を続けられる。“注意しておきました”ぐらいのレベルです。実際、弁護士の所得隠しは戒告で済まされることがあり、また、年間約2600件出される懲戒請求では、処分された者の大半が戒告で終わっている。いきおい、何度も戒告処分を受けた不良弁護士が大手を振って法廷に立っているのが現状です」(司法関係者)

 元日弁連会長の宇都宮健児氏も言うのだ。

「このケースは、私も処分が軽い印象を受けますが、決議まで2年もかかったのは長すぎる。皆が忘れた頃に軽い処分というのでは“身内同士でナアナアでやっている”と思われても仕方ありません。これでは一般市民が納得しませんよ」

 そこで長谷川弁護士に聞くと、

「ダメダメ、一切ノーコメント!」

 弁護士バッジの「天秤」は“お手盛り処分”のさじ加減を見るためにあるようだ。

「ワイド特集 さまざまの事おもひ出す桜かな」より