狩猟免許試験は「この絵のまま出ます」試験問題が手に入る講習会〈田舎暮らし3年で「罠猟師」への道!(3)〉

食・暮らし週刊新潮 2016年3月10日号掲載

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狩猟免許試験予備講習会々場

 田舎暮らしを続けるノンフィクションライター・清泉亮氏は、「罠猟師」の資格取得のための事前講習会に臨んだ。そこで出会ったハンターガール氏から“おすそ分け”の重要性を学び、「狩猟のマナー」講義でも同様のことを聞かされた。つづく講義は……。

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 事前講習会の最大のメリットを悟らせる機会は、午前中最後の講義「鳥獣判別」で訪れた。

 猟友会の老講師がハイッハイッとの掛け声とともに、紙芝居大にカラーで印刷された鳥や獣の絵を見せ、それが狩猟が許可されているものかどうかを解説している最中、やはり後方から大きな声が上がった。

「メスとオス、どこが違うんだぁ~」

 その日初めて、笑いの渦が講堂を包んだ。

 獣においては種を残すメスは獲れないものが多い。イタチもオスはOKだが、メスはNG。しかし、掲げられた絵を見れば、その容姿は瓜二つ。いや、当然ながらまったく同じ。

「大きさで……オスは大きくメスは小さいので……」と壇上の講師も苦しい。掲げられた絵で大小の見分けはつかない。が、ついに“啓示”が舞い降りた。

「……この絵、試験ではこの絵のまま、出ます。この絵が出るんですっ。だから、背景の絵を見て下さい……」

 失笑とともにざわめく講堂が、瞬時に沈黙に転じた。

 一同、渡されたテキスト「狩猟読本」に食い入るように目を落とす。カラーで掲載されている鳥獣の絵を見れば、なるほど、オスメスの姿は同じだが、背景の草や木に違いがある。メスイタチの背景の草は「2本」だが、オスは「1本」。これだっ。

 鳥のシギも同様だった。タシギもヤマシギも姿形では見分け困難だが、タシギの背景は「田」であり、ヤマシギのそれは「草むら」。講師ももはや開き直ったのか、心なしか、講義の重点は、背景の絵の解説に移ったような気さえする。カモの判別も、海ガモの背景の水は「濃い青」で河川のカモは「薄い青」だ。

「狩猟読本」の絵がそっくりそのまま試験でも使われていることを知った優越感とともに、判別のコツは「背景の絵」であるという、雌雄判別の本質とは無縁ながらも、試験対策の最強“テクニック”を得て、講堂には沈黙と共に安堵の空気が満ちた。試験問題そのままの「鳥獣の絵」を入手しただけでも6000円の元をとったとさえ思わせるではないか。

■“猟友会のエース”登場

 午後は罠の仕掛け方などの実技講習となるが、やはりこちらでも「ぜんぜん聞こえねー」「ぜんぜん見えねー」と、怒気を含んだ声が上がった。が、そこにトビ職よろしく、靴を脱いでヒラリと机の上に飛び乗った猟友会の若手が、罠を手にこう宣言した。

「今日は俺は夜まで付き合うからっ。納得いくまでとことん夜まで付き合うからっ。どれだけでも付き合う覚悟だからっ」

 だが、この猟友会のエースと思しき若手講師のみなぎる自信が決してハッタリではないことは、のち、実際の試験会場で明らかになるのだった。

 県庁、林務事務所がこぞって推薦するこの事前講習会では、その受講者の合格率は実に9割を超え、未受講者よりも10ポイント以上高い合格率を誇るとか。

 猟友会のエースが宣言したように、各自、納得のいくまで甲州弁と標準語が飛び交う質疑応答を繰り返し、夕刻4時の鐘と前後して、各自、しっかり納得したところで自由散会。山梨も県の四隅は広い。静岡や長野寄りからの遠来の受講者は、早めに実技指導を受けられる配慮が微笑ましい。

(4)へつづく

「特別読物 国家試験に一発合格のカラクリ! 田舎暮らし3年で『罠猟師』への道!――清泉亮(ノンフィクションライター)」より

清泉亮(せいせん・とおる)
1974年生まれ。専門紙記者などを経てフリーに。別の筆名で多くのノンフィクション作品を手掛けてきた。近現代史の現場を訪ね歩き、歴史上知られていない無名の人々の消えゆく記憶を書きとめる活動を続けている。信条は「訊くのではなく聞こえる瞬間を待つ」。清泉名義での著書に『吉原まんだら』『十字架を背負った尾根』がある。