狩猟免許試験に受かるコツは“事前講習”でることだった〈田舎暮らし3年で「罠猟師」への道!(4)〉

食・暮らし週刊新潮 2016年3月10日号掲載

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講習会受講は“絶対必須”

 6000円を払って受けた事前講習会には、試験問題“そのまま”を入手できるメリットがあった。さらに試験を受けて、さらなる講習会の必要性を実感。田舎で暮らすノンフィクションライター・清泉亮氏がお届けする「罠猟師」への道、最終回である。

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 そして試験日を迎えた。

 法令や罠の構造などを問う午前中の筆記試験が終わると、1時間後にはその場で合否の発表がある。筆記試験に合格した者だけが、午後の実技試験へと進むことができる。小さなロビーに合格番号が張り出されると、寂しい背中を見せながら去っていく翁がちらほら。

 午後の鳥獣判別試験では、捕獲できるものとできないものとを見極め、捕獲できるものはその名前を正確に答える必要がある。しかし、イタチと思しき絵が2枚出てきて閉口。それは冬毛のミンクであったのだが、絵には「倒木」が描かれていることを覚えていなかった。やはり、背景の絵が合否の鍵を握ることを痛感した。

 続く、罠の判定試験では、部屋に入った瞬間、試験官の顔を見て息を呑んだ。

 その顔は忘れようもない。2週間前の事前講習会で、「ここだけを押さえておけば大丈夫」と、合格のポイントを繰り返し連呼していた、猟友会の幹部でもある翁、そのひとであった。

 いくつか並べられた罠をひとつひとつ手にとり、あたかも顔色をうかがうかのように、弱々しく可否を答える私に、「ハイッハイッ」と、まるで背中を押してくれているかのようだ。

 驚きとともに廊下の椅子で、なるほど、猟友会の会員が試験官もするのかと、ようやく事前講習会のすべての意味を納得するなか、ついに最後の試験となる、罠の仕掛けがやってきた。

 緊張とともに再び会議室の扉を開けたそこに座っていたのは、そう、あの人だった。猟友会のエースである「納得いくまでとことん付き合うあの男」。緊張と安堵が伯仲する。

 仕掛け終わり、実際に獣の脚に見立てた竹竿で仕掛け板を押し、罠が作動するかどうかを確認するのだが、軽く押してもワイヤーが飛び出してこない。いささかの焦りを見て取ったのか、試験官の顔を上目遣いに見た私に、エースは優しいまなざしで微笑み返し、「大丈夫ですよっ」とひと声。その声に勇気を得て一気に竹竿を押し込み、無事、罠は作動したのだった。

 猟友会の事前講習会を受けておいてよかった。否、あれはやはり、絶対に受けなければならないもの、だった。帰路、何度もそう反芻せざるをえなかった。

■罠にかかったのは……

 試験から2週間後――。事前講習会受講者の一人として見事に合格し、さっそく初狩猟へと出向いた。

 だが、こちらはまだ初心者。それも罠師である。まずは、雪の上に点々とついた足跡を追い、先輩猟師のもとで現場実習に勤しむことにした。

 先輩猟師が仕掛けた「くくり罠」は、鹿や猪の脚の1本が仕掛けを踏むと強力なバネの力でワイヤーが締め上げるもので、生きたまま捕らえられる。

 罠にかかった鹿や猪は銃などで「止め矢」をして仕留めなければ、逃げようと必死の獣の脚から、ワイヤーや仕掛けを外すことさえできない。

 カラマツの木立のそばに仕掛けた一つに、茶色い背中が見えた。

「おったっ」

 一気に息がはずむ先輩猟師とともに駆け寄ると、角のないメス鹿である。いささか小ぶりだが、それでも人間の大人ほどはある。若い個体だろう。人間の影を見て暴れている。居たたまれなくなった私は、思わず、目を背けた。

 背中越し、氷点下の冷え切った山麓にパーンと、一発の乾いた音が響く。

 軽トラの荷台に獲物を乗せ終わった猟師は言った。

「ひでーのになるとな、とにかくダニがすげーんだよ。脚の内側の付け根にダニがダンゴになってひっついてな。後でばらし(解体し)たら、肉、届けっからよ」

 それからわずか後、集落の古老からある情報がもたらされた。軽トラックほどもある巨大な猪が夜な夜な山から下りてくるというのだ。これを機に、八ヶ岳のヌシとの長い闘いの火ぶたが切られるのだが、これはまた別の機会に。

「特別読物 国家試験に一発合格のカラクリ! 田舎暮らし3年で『罠猟師』への道!――清泉亮(ノンフィクションライター)」より

清泉亮(せいせん・とおる)
1974年生まれ。専門紙記者などを経てフリーに。別の筆名で多くのノンフィクション作品を手掛けてきた。近現代史の現場を訪ね歩き、歴史上知られていない無名の人々の消えゆく記憶を書きとめる活動を続けている。信条は「訊くのではなく聞こえる瞬間を待つ」。清泉名義での著書に『吉原まんだら』『十字架を背負った尾根』がある。