意外な「北朝鮮」事情? 農業改革政策で国民からの支持が実は厚い「金正恩体制」

国際 韓国・北朝鮮

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防衛省

 2月7日午前に北朝鮮が発射したミサイルは、日本から南に約2000キロ離れたフィリピンに近い太平洋上に落下した。「狼少年」よろしく「またか」との思いをもってしまいがちだが、その技術進化は馬鹿にできず、北朝鮮は着々とミサイルおよび核開発を進めている。

 今回のミサイル発射は、とりわけ中国を意識したものだったと、北朝鮮事情に詳しい関西大学の李英和教授は分析する。

「中国に気を遣い、『弟分』のように振る舞っても経済制裁が解かれるわけではない。金正恩はそれを悟り、少なくとも13年12月に、親中派だった叔父で最側近の張成沢を処刑した時点から中国離れを始めた。今度のミサイル発射は、格闘技のテコンドーの技である後ろ回し蹴りに似て、米国の鼻先をかすめながら、実は背後の中国に蹴りを入れるのが狙いなのです。俺たちは中国の属国ではない、と」

 この中国離れの背景には、意外にも国民の「支持」があるのだと、李教授は説明を続ける。

「金正恩は2年ほど前に農業改革を打ち出し、これまで農家の生産物は全て国に納めなければならなかったものを、3割納めれば残りの7割は個人で好きにしていいと認めた。この政策が農家に受け、ひいては農業以外にも広がっていくのではないかと、国民の間に期待が高まっているんです」

 結果、幹部の粛清という恐怖政治の現実がありながらも、金正恩体制の「支持率」は必ずしも低くなく、その「自信」が中国からの「自立」の淵源になっているというのだ。

■さらなる経済的な余裕も

 金正恩に関する著書がある、「デイリーNKジャパン」の高英起編集長も、

「農業改革による農民の意欲向上により、北朝鮮の生活水準は確かに多少上向いていると言えるでしょう」

 と、北の内情を補足し、「コリア・レポート」の辺真一編集長はこう後を受ける。

「これまで、北朝鮮は国家予算の30%から50%を国防費に回していました。今度のミサイル発射の成功で、ある程度技術開発の目処がつき、今後、国防費を10%程度削減できるようになるかもしれない。その分、さらに経済的な余裕が生まれる事態も考えられます」

 最後に、北朝鮮研究を続けてきた早稲田大学の重村智計(としみつ)教授が、改めて今回のミサイル発射の「北の思惑」を総括する。

「5月に予定されている36年ぶりの労働党大会に向けての実績づくりに加えて、今年の早期にも、と検討されていた金正恩の訪中を反故にした、中国へのあてつけの意味があったと、やはり考えるべきでしょう」

 米中を「ターゲット」にした北朝鮮のミサイル発射。金正恩は、狼少年ではなく「狼」として牙を剥き始めている─―。

「特集 南の空に飛翔体! 防衛省に胸騒ぎ! 中国が警戒感! 馬鹿にできない『北朝鮮』ミサイルの劇的進化」より

週刊新潮 2016年2月18日号掲載

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