サッカー日韓戦のヒーローは9人家族で飛躍的に成長した

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“谷間の世代”と言われ、期待薄だった評価を一変させた。なかでも、FWの浅野拓磨選手(21)は決勝の日韓戦で2ゴールを決め、逆転勝利の立役者となる活躍を見せたのだ。実は、ヒーローとして飛躍的に成長できたのは、9人家族で育ったことも理由の一つだという。

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 すでにリオ五輪の出場権を獲得しているU-23サッカー日本代表は1月30日、アジア選手権の決勝戦で韓国を3対2で破り、アジアナンバーワンの座に上り詰めた。

 スポーツ紙記者の話。

「前半、2点を失っても、誰も下を向いていなかったし、選手たちはきっと盛り返せるという共通認識を持っていた。しかも、この大会では、手倉森監督の采配がずばり的中していました。韓国選手の運動量が落ちてきたのを見計らって、50メートル5・9秒の俊足、浅野を後半から投入したのも見事に当たった」

 一躍、世間の注目を集めることになった浅野とは、どのような選手なのか。

 三重県菰野(こもの)町の出身で、四日市中央工の2年生のときには、全国高校サッカー選手権で得点王に輝き、チームは準優勝を果たした。高校卒業後、サンフレッチェ広島に入団すると、スーパーサブとして活躍。3年目の昨季、ベストヤングプレーヤーに選出されている。

■俯瞰する能力

「高校時代から、スピードと相手との一瞬の駆け引きには、光るものがありました。将来は、点取り屋としてA代表にも定着できるはずです」

 と解説するのは、サッカージャーナリストの安藤隆人氏だ。

「性格は非常に穏やかで、6人のきょうだいに囲まれて育ってきていますから、わがままなところもありません。しかも、大家族で育ったおかげで、物事を俯瞰する能力に長けている。これは、サッカーにおいて重要な素質です。試合全体を見渡し、自分がなすべきことが分かるからです。いつも、拓磨の試合は家族みんなで応援に来ていました。拓磨にとっても家族は、モチベーションを高めるのに不可欠な存在なのでしょう」

 浅野家のきょうだいは、すでに結婚している長男(24)、現在、米国で仕事をしている次男(23)、本人、大学生の四男(18)、さらに、高校生の五男(17)、中学生の六男(14)、末っ子が幼稚園児の長女(4)という構成である。

 夫(50)とともに、7人きょうだいを育てた、都姉子(としこ)さん(50)に聞くと、

「夫も含めて、うちの家族の男はみな、サッカーをやっています。いま、大阪体育大学に通っている四男もプロ選手を目指している。ただ、お金の都合で、拓磨と同じ四日市中央工には行かせられなかった。あそこは、年に100万円近く遠征費がかかってしまうのです」

 夫は長距離トラックの運転手をしているが、生活費のために夫婦共々、結婚指輪はすでに売り払ったという。

「やはり、お金は大変です。餃子なんて、120個くらい焼かないと足りませんし。けれど、上の子が助けてくれて、拓磨もプロ入りしてから、毎月10万円を家に入れるようになった。ステップワゴンというバンも買ってくれました。夫が、その車を運転し、広島まで応援に行ったりもしています。リオまで応援に行けるかどうか分かりませんが、五輪でもチームに貢献することを期待しています」(同)

 サッカー界の大家族物語は、ハッピーエンドなのである。

「ワイド特集 崖っぷちの歩き方」より

週刊新潮 2016年2月11日号掲載

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