「日本人フリー記者がシリアで拘束」を流した情報源にインタビュー

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 危険を顧みず、命懸けで取材を行う戦場ジャーナリストたち。安田純平氏(41)もその一人だが、12月22日、NGO組織「国境なき記者団」は、彼がシリアで拉致され、身代金を要求されている、との声明を出した。ところが、声明はわずか6日後、あっさり撤回されることに。もっとも、安田氏の情報を提供した人物はおかんむりの様子で……。

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 そもそも安田氏がアルカイダ系の武装組織「ヌスラ戦線」に拉致されたとの情報は、昨年の7月頃から流れていた。が、ヌスラ戦線側から何の音沙汰もないため、日本のマスコミも報道しなかったという。

 実は、国境なき記者団に身代金要求話をしたのは、「CTSSジャパン」のニルス・ビルト氏(40)である。彼はスウェーデン生まれで、会社は危機管理コンサルタントなどを行っているそうだが、

「我が社は、トルコ南部やシリア北部地域にネットワークがある。6月末頃、トルコにいる私のマネージャーから純平が行方不明になっているとの情報を入手したのです」

 と、ビルト氏が言う。

「ヌスラ戦線はイスラム原理主義者のテロリストだが、取引が通じる連中だ。だから、純平の件も解決できると思ったし、自信もある。そこで純平の妻に連絡し、私の情報をもとに外務省に連絡を取ることを勧めた。彼には後ろ盾がない。とすれば、身代金を払えるのは外務省しかない。しかし、外務省はこの問題に全く関心を示していません。正直に言うと、日本政府は純平が死んでくれた方がいいと思っているのではないか。彼らの反応に私は失望しています」

■5000万円払え

 しかし、ビルト氏の動きに激怒している人がいる。安田氏の知人で、ジャーナリストの常岡浩介氏だ。

「私が独自のルートで調査したところ、身代金の要求は確認できませんでした。今後、彼を何らかの“交渉のカード”にするため、拘束しているものと見られます」

 常岡氏は昨年8月初め、ビルト氏の要請で安田氏の妻を紹介したが、

「彼は、安田さんの奥さんに『交渉役として外務省が自分と契約できるよう推薦してもらえないか』と言ったそうです。あまりにしつこいので不信感を抱き、外務省に取り次ぐこともしませんでした。そこで、彼は自ら外務省と連絡を取り、『私は身代金のディスカウントもできる。交渉役の契約料は5000万円だ』と迫ったのです」(同)

 ビルト氏は、安田氏が生存していることを証明する写真を持っているとか。当然、外務省はその写真を見せるよう要求。しかし、ビルト氏は、「まず、5000万円払え」と言い、平行線のまま。結局、交渉は決裂したという。

「11月末には、ビルトから私と安田さんの奥さんと外務省に『身代金をなかなか払わないからか、ヌスラ戦線と連絡が取れなくなった。安田さんは亡くなったということだ』との衝撃的なメールが届きました。急いで確認すると、複数のルートから“生きている”との連絡がきましたが、こんないい加減な情報を流して何の意味があるのか。安田さんの奥さんも怒っていますよ」(同)

 政府は、テロリストが身代金を要求してきた場合、支払いには応じない方針だ。

「“身代金の要求=死”なんです。国境なき記者団の声明がヌスラ戦線を刺激し、本当に身代金を要求されたら目も当てられない。声明を取り消してくれて本当に良かった。今やビルトこそが安田さん拘束事件での最大の脅威ですよ」(同)

 とはいえ、ビルト氏はまだまだ諦める様子はない。

「私は5000万円なんか要求してない。実際は、その半分以下の金額だ。国境なき記者団は、なぜ声明を撤回したのか、理解できない。日本政府が圧力でも掛けたのか。金額は言えないが、ヌスラ戦線は身代金を要求している。私たちがその要求を受けたのだから、私の情報は、良質で信憑性が高い。12月30日にも純平から直筆の手紙がきて、彼が生存している証拠として外務省に渡したところだ」

 これ以上のトラブルを起さぬよう祈るばかりである。

「ワイド特集 剣が峰にて一陽来復」より

週刊新潮 2016年1月14日迎春増大号掲載

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