90歳男性も「いつも恋人がいる」 長寿の島・サルデーニャの“ストレスと無縁な生き方”

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 2012年の国連の統計によれば、100歳以上の高齢者が人口に占める割合は、日本が世界一。が、ここイタリア領サルデーニャ島の地域に限っていえば、“日本の5倍”の長寿を誇るのだ。

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 島には、「9人の合計年齢818歳」のギネス世界認定を受けた「メリス家」のきょうだいが暮らす。その次女である102歳のクラウディア・ライさんを訪ねた。若いころは乗馬が得意で、97歳まで、バールで販売する菓子などを作っていたという。18歳で結婚した夫は1976年に、75歳で亡くなったそうで、

次男のアドルフォさん(92・左)と次女のクラウディアさん(102・右)

「いまは旦那がいないので、(判断が要るときは)神に聞きます。食事はインゲン豆にじゃがいも、米などのほか、(トウモロコシの粉を粥状にした)ポレンタを少し。ミネストローネは朝も昼もよく食べます。それから赤ワインをグラスー杯。よく働き、食べすぎないのが大事で、そこはきょうだい全員一致しています」

 そう語るクラウディアさんは、記憶も、語る内容も明晰そのものである。

「昨日、孫のギターに合わせて即興曲を歌ったんですけど、おばあちゃんの歌を聴いたのははじめて」

 と、息子の嫁は驚く。クラウディアさんが続ける。

「仕事はしすぎもだめ。すべてをバランスよく保たないといけません」

 孫のアルベルトさん(21)が、祖母の意を解く。

「やりすぎるな、バランスが大事だ、というのが祖母の教訓なんです。働くのは大事だが、働きすぎて体を壊したら元も子もない。周囲にも迷惑がかかる。それに、家族も夫婦関係も友人関係も大事で、それを犠牲にしてまで仕事をしすぎてはダメだと。そういうことを祖母から学べるのが大事で、祖母と話すために、昔ながらのサルデーニャ方言を勉強したんです」

■ストレスをためない

 いまも毎日歩くというクラウディアさんの、わずかながらの不満は、

「昔は年寄りに対する尊敬の念があって、年寄りの前ではみんな帽子をとったもの。そういう意識が減ったのは悲しい」

 ということだが、基本的にいつも前向きだ。アルベルトさんが語る。

「7人の子供を育てるためには自分を犠牲にもしたけれど、いまは毎日家族と一緒にいて、話を交わすのが楽しい。だから長生きして楽しい、と祖母は言います。また、喧嘩をするな、言い合いをするな、議論をしよう、というのが祖母の口癖です。喧嘩をすると、なにより自分が残念だから、しない。きょうだいの間でも、相手が嫌がることは絶対にしないように意識して、いつも仲良くいられるように心がけている。そうしてストレスをためないようにしている、というんです」

■「いつも若い女性と一緒」

アドルフォさん(92)は現役バリスタ

 メリス家きょうだいの次男・アドルフォさん(92)も元気で、バールの現役経営者である。その店を訪ねると、近所に住むという男性が、闊達に話しかけてきた。軍隊を経験したのち、クレーンを扱うなど実業を手がけてきたというそのピエトロ・マメーリさんも、すでに90歳だという。結婚経験がないと語るので、その理由を尋ねると、

「いつも恋人がいるし、いつも若い女性と一緒だから、結婚する必要がなかったんだ。先日もポンペイの遺跡に行って、中国人の5人組の女性に声をかけたよ」

 ピエトロさんもまた、ストレスと無縁に暮らしている模様である。では、食生活そのほかはどうか。

「睡眠時間は若いときから5、6時間。太りたくなくて、体重は12歳のときからずっと54キロをキープしているよ。朝食はカプチーノのみ。昼食はミネストローネが多い。おやつに“インドのいちじく”と呼ぶサボテンの実を食べたりもするね。夕食はヤギの乳のほか肉を少し。それから、昼に1杯だけ、カンノナウの赤ワインを飲む。あとはたくさん歩くんだ。若いときからよく踊っているし」

 そう言って見せる踊るような身のこなしも、弾けるような笑顔も、とても90歳には見えない。

 地域の長寿を研究してきたオリアストラ遺伝子研究所のマリオ・ピラストゥ所長が語る。

長寿の町、ペルダズデフォグ遠望

「オリアストラ県の長寿者たちはみな、自然のリズムで生活しています。過剰な食事をしないから、メタボリック症候群と無縁ですし、なにより孤独を知りません。自分が生まれた集落で家族や仲間の愛情に包まれ、健康的に暮らしています。家族の存在は、100個の薬よりも価値がある。こうした結果、体と脳のトレーニングが同時に続けられています。長生きの秘訣はシンプルですよ。ただ、彼らのライフスタイルを真似すればいいのです」

 それは言うほど簡単ではないが、食べすぎや飲みすぎ、あるいは、いら立ちや諍(いさか)い、そうした諸々が原因のストレスから、少しでも解放されることが長寿につながると、意識しておくだけでも価値はあるだろう。

「特集 地中海に浮かぶ『百寿者の楽園』を現地取材! 『サルデーニャ島』で見つけた元気な100歳の食事と生活」より

週刊新潮 2015年11月12号掲載

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