がん放置療法「近藤誠」医師の7つの嘘――大場大(東京オンコロジークリニック院長)

ライフ週刊新潮 2015年9月3号掲載

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■「控えめな作業」

 続いて、これまで触れてきた近藤氏の医師としての倫理欠如を、改めて大場氏は論難する。

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4 医療倫理の欠如

 彼の提唱する「放置療法」は、治療行為を身勝手に否定することで、放置を推奨しているだけ。放置することの利益・不利益については何も確かめられていないのです。自らの体験談でうまくいったケースを強調しますが、数少ない単なる偶然を並べるだけでは根拠薄弱。加えて、放置による不利益については決して語ろうとしないのです。

 医療倫理の大切さを物語るうえで好適な話があります。それは1972年、ニューヨーク・タイムズが伝えた、衝撃的なニュースです。

 47年から、梅毒にはペニシリンを使用することが標準治療とされていました。にもかかわらず、アラバマ州のある町では、梅毒感染したアフリカ系住民にこの薬品を使用せず、自然経過をみる実験が70年代までの40年間にわたって行なわれてきたというのです。狙いは、人種の違いが病気の経過に影響を与えるかどうかを確かめることでした。

 この報道を契機として、医療倫理に対する配慮が国際的に一気に広まりました。「放置が手術より利益がある」というエビデンスがどこにも存在しないのに、放置を勧めるふるまい。それと右の事件との違いは、果たしてどこにあると言うのでしょうか。

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 近藤氏を有名にした、「抗がん剤は毒薬」で短命効果しかないという主張がある。そのひとつ、分子標的薬「パニツムマブ」の有効性についても対談で、〈分子標的薬は実際にはたいした効果がない。にもかかわらず、多くの製薬会社は社員や関連する医師に論文を作らせて厚労省の承認を得ている〉と、疑義を呈したのだった。

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5 陰謀説から逃れられない臨床試験への無理解

 彼は、研究者と製薬企業がぐるになってデータを操作し、論文が作られていると最初に決めつけます。それが本当に立証できれば、世界的なスクープだと思うのですが、彼は証拠を示しません。

 パニツムマブ論文の著者である医師たちの中に、治験を依頼する会社から資金提供を受けている者がいるのは事実です。しかし、大きな臨床試験を実施する際には、それなりの額の研究費用というものが必要になる。私も、規模の大きなランダム化比較試験を手掛けたことがあります。やはり、運営費やデータ保持費用などが相当かさみました。だからといって、医療倫理に背きデータを都合よく操作することがあってはなりませんし、実際には不可能です。

 検査は厳密なスケジュールで進められ、さらに抗がん剤治療を受けた患者なのか否かが知らされていない第三者が〈進行あり/なし〉の判定をする。したがって、担当医や研究者たちはデータの解析には一切手の出しようがありません。「いいデータ」なんて意図的には作れないのです。

 それでも陰謀説から離れられないのなら、厚労省はもちろん、これを採用した米国・欧州の規制当局にも異を唱えるべきでしょう。

 その一方で、近藤氏が意図的に自分に都合のいいデータを作っているのは前回の記事でご説明しました。100年前の乳がん放置治療のデータを貼り付けるなど、いろいろなところがら材料を持ってきてグラフを自作しているのです。そういった工作こそ、本来やってはいけないもの。しかし、彼は対談の席上、「それは控えめな作業であった」と弁明するのでした。

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