日本の貧困と格差(後篇) 「風俗でも抜け出せない『独身女性』の貧困地獄」――亀山早苗(ノンフィクション作家)

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生真面目な人ほど

 独り者の40代なら、まだ食べていけるかもしれない。だが、さらに年齢があがると、不安定な収入のまま、ひとりで親の介護まで担わなくてはいけない。

 50歳になるユカリさん=仮名=は、派遣で働きながら、母親とふたりで都内に暮らしている。母が受給する年金は国民年金のみ、それも月に4万円程度だ。ユカリさんの月収と合わせても、17万円ほど。狭いアパートだが家賃は8万円。光熱費を払うと、ぎりぎりの生活で貯金もできない。

「80歳の母は最近、あちこちが痛いと言うようになったけど、医療費を考えると病院にも気軽には行けません。せつないです。私も持病を抱えているので、これ以上は働けない。これでいざ介護となったら、どうすればいいんだろうと、不安でたまらない。親子ふたりで心中するしかないかもしれません」

 やはり、ユカリさんも生活保護は考えていない。不正受給が問題視される生活保護だが、多くの人は国に食べさせてもらおうなどとは思っていないのだ。つまり、生真面目な人ほど貧困から抜けられない。

 都会、特に東京は家賃が高い。衣食は切りつめることができても、家賃はどうにもならない。

「先進国では、所得が低い層に家賃を補助したり、公営住宅を提供したりするのが当たり前です。でも日本は、低所得層に分配するシステムが、生活保護を除いて整っていない。政府が大きく政策の舵を切って格差を是正していかないと、大変なことになる。個人の努力でどうにかなる時期はとっくに過ぎています」

 藤田さんの口調が熱い。

 若い女性、離婚して独身に戻った女性、未婚のまま熟年を迎える女性――。日本では今、あらゆる立場の女性にとって、貧困が他人事ではなくなっている。女性の労働が「家計の助け」だという意識を改め、男女の賃金格差を解消する。女性が安心して継続的に働ける社会にシフトする。そのために経済的支援も惜しまないことだ。そうしてはじめて、「すべての女性が輝く社会」が実現できるはずだ。

 3回にわたり、現代日本の貧困と格差について考えてきた。老年、子ども、女性。いずれの間でも社会の階層化と、貧困の固定化が進んでいた。また、昨日まで平穏無事な家庭生活を送っていた人が突然、貧困側に陥るケースも珍しくなかった。いったん貧困状態に陥ると、そこから抜け出るのは容易ではない。虐待やDVといった今日的な社会問題の多くも、実は、貧困と切り離せないことがわかった。今月から生活困窮者自立支援法が施行されるが、貧困問題の解決なくして、日本の社会の再生はない。そのことだけは明らかになったように思う。

日本の貧困と格差(前篇) 「年金では生きていけない赤貧の現場」
日本の貧困と格差(中篇) 「『貧困の連鎖』から抜け出せない『子どもたち』」

亀山早苗(かめやま・さなえ)
1960年、東京生まれ。明治大学を卒業後、フリーライターに。幅広く社会問題に取り組む中でも女性の恋愛や生活、性をテーマとした著作を数多く刊行。『女の残り時間』『救う男たち』など著書多数。

週刊新潮 2015年4月9日号掲載

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