船でしか行けない「何もない宿」 宿泊したら自慢できる「日本の変な宿」紀行(3)

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 日本には“おもてなし”精神溢れる宿がごまんとある。そんななか明明白白たる優雅な宿に背を向け、泊まった後他人に絶対自慢したくなる、唯一無二の体験ができる“変な宿”を見つける旅に出た本誌記者。

 氷の宿、崩れかけ温泉、屋上露天風呂、洞窟座敷ときて、次は豪雪の日本海側、富山県の高岡に向かった。2015年3月に北陸新幹線が開業すれば、東京と3時間で結ばれるが、向かった宿は事情が違った。高岡駅前からバスに1時間揺られ、さらに1日3往復の遊覧船で庄川を遡ること30分。現実離れした雪景色とエメラルドの川、遊覧船の組み合わせは、ロシアのB級SF映画のよう。数匹のカモシカも現れたその先に、「大牧温泉観光旅館」(富山県南砺(なんと)市)は建っていた。

 番頭役の近藤義幸課長が出迎えてくれた。

「庄川の河原にあった湯治場が、昭和5年のダム建設で水没。改めて源泉からお湯をひいて今の場所に旅館を建てたため、交通の便が悪いんですよ」

 裏手に林道はあるが、悪路で一般車は通行不可。急病人はモーターボートで市内の病院まで搬送する。

「大牧温泉観光旅館」(富山県南砺(なんと)市)。
1泊2食付2万1750円~(2名から)
TEL:0763-82-0363

「みなさん何もない賛沢を満喫しに来られます。都会の雑踏から逃れてくる社長さんも常連です」(同)

 川べりにこだわって建てたため、廊下の長さは160メートルにも及ぶとか。そのため、翌朝、お帰りのご老人方はみな疲れきっていたが、白銀とエメラルド色の組み合わせは、いつまでも目に焼きつくことだろう。

■大衆演劇が観られるホテル

 人恋しくなって大都会の大阪に足を向けた。大阪駅からJR大和路線で八尾駅まで30分、さらに車で10分ほど行くと、住宅街に6階建ての「八尾グランドホテル」が出現。ロケーションがいかにも大阪的だが、入ってまたビックリ。400名収容の劇場から浪速のオバサマたちの歓声が聞こえてくるではないか。宿泊者は1日2回、花魁ショーなどを無料で観られるのだ。

「八尾グランドホテル」(大阪府)。
1泊2食付1万4800円(税別)~
TEL:072-994-3591

 若女将の稲垣草矢子さんの鼻息は荒い。

「全国を視察した父が、地方の健康ランドで大衆演劇の集客力に驚き、建設したんです。劇場のオープンは97年で、その3、4年後に10億円以上をかけて今の形になりました」

 梅沢富美男や早乙女太一などのスターが輩出している大衆演劇。だが、専用の劇場でも収容人数は200人がほとんどだとか。

「父は興行師の方から“こない大きな劇場どないすんねん”と怒られたそうですが、今では立ち見が出ることもあるんですよ」

 曲はJポップからド演歌まで幅広いが、27歳の記者に識別できたのは「時の流れに身をまかせ」だけ。ともかく異次元ではあった。

「特集 宿泊したら自慢できる『日本の変な宿』紀行」より

週刊新潮 2015年1月1・8日新年特大号掲載

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