「地震と噴火は必ず起こる」―大変動列島に住むということ―

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マグマ学者が置いた「真実の刃物」/藤崎慎吾

 最近の自分の仕事に関係があるので、つい引き合いに出してしまうのだが、約一〇〇年前に民俗学者の柳田國男が書いた『遠野物語』を評して三島由紀夫が述べた言葉を、そのまま本書に贈りたい――「ここには幾多の怖ろしい話が語られている。これ以上はないほど簡潔に、真実の刃物が無造作に抜き身で置かれている」

『遠野物語』は文学としても高く評価されているが、少なくとも表向きは研究用の資料として書かれた。序文にも「要するにこの書は現在の事実なり」と記されている。本書もまた一般向けではあるが、地球科学の先端的な研究に基づく事実だけを述べた本である。むろん、その「事実」は多くの仮説や予測を含んでおり、今後の研究によって変わっていくものではあるが、少なくとも文学的な演出や装飾は施されていない。にもかかわらず、というか、そうであるが故に、なおさら胸に迫ってくるものがあるのだ。

 とはいえ単に事実を並べただけでは、当然ながら読者の気持ちを動かすことはできない。柳田のように研ぎすまされた文語体を用いているわけではないが、著者の文章には堅苦しさがなく、適度に遊びはあるものの無駄はなく、すんなり頭に入ってくる。ちょうど昔話を聞かせているような語り口と言おうか――しかし、その「昔」というのは本書の場合、数十億年の過去にまで遡るのだ。

 太陽系の誕生から始まって、現在に至るまでの「因縁」を、著者は丹念にひもといている。その行き着く先に、世界でもトップクラスの地震国であり火山国である日本が存在する。そのありようは今後も変わらず、我々は宿命的にその国土と共存していかねばならない。それは逃れようのない「真実の刃物」であり、我々を傷つけもする。

 本書によれば一万人以上の死者が想定される巨大地震も、総人口の一割を失うかもしれない超巨大噴火も、目睫(もくしょう)の間(かん)に迫っている。とくに超巨大噴火では、たとえ九割が生き残ったとしても大量の火山灰で都市機能は壊滅し、国土は荒れ果てて、日本という国の存続すら危ぶまれるという。

 一方で地震を起こし火山を噴火させる巨大な力は、我々に大きな恵みをもたらしている。温泉は言うにおよばず、多種多様な海の幸、山の幸、きれいな水、うまい酒、そして意外と豊富な鉱物資源に至るまで、いずれも日本の変化に富む地形や地質がもたらした。その日本を形づくったのが、時には我々を脅かす地球の力なのだと著者は説く。

 真実の刃物の両側面を、我々は等しく深く知らねばならない。その上で、この国土に住み続ける「覚悟」とともに、少しでも災いを軽減する道を模索すべきだという本書の主張には説得力がある。災害を嘆き恐れるだけなら、火星にでも住むしかない。冷えて死んだ、かの惑星では、もはや地震も噴火も起きないからだ。その意味では至極安全だが、移住を望む人は、ごくわずかであろう。

「波」2012年9月号 掲載

[評者]藤崎慎吾(ふじさき・しんご 作家)