阪神が名前を伏せた「ミスターX」とは? 史上最下位18位指名も…知られざるドラフト秘話
高校5年目の右腕、阪神が名前を伏せた理由
「ミスターX」こと矢野正之(霧が丘)は、2年生から3年生に進級する際に単位が足りず留年し、翌年も進級できなかった。当時は高校5年目だった。菊地敏幸元スカウトも後年、矢野が2年続けて留年し、高校5年目の夏を迎えた経緯を明かしている。
「勉強が嫌いで、授業に出ずに野球だけをやっていたら、こうなってしまった」
本人は後にそう述懐している。
公式戦に出場できない期間も野球部に残り、後輩の練習を手伝いながらトレーニングを続けた。高校5年目となった夏の神奈川県大会では、監督としてベンチ入りしている。
そんな異色の右腕に目をつけたのが、当時阪神の関東地区担当の菊地スカウトだった。
182センチの長身から力のある球を投げる矢野を高く評価し、阪神は獲得へ向けて動き出す。
矢野の指名計画は球団内でも極秘扱いだった。菊地によれば、計画を把握していたのは編成部長の横溝桂と菊地の2人だけ。スカウト会議でも「ミスターX」と呼び、名前を伏せていたという。
そしてドラフト当日、とっておきの隠し玉右腕は予定どおり5位で指名された。
「中退も考えたけれど、野球を続けていて良かった」
プロ入りの夢がかなったことを喜んだ矢野だったが、直後、「でも、オレ、今年は卒業できるのかなあ」と口にし、周囲からドッと笑いが起こったという。
阪神では97年に3試合登板しただけで、素質が大きく開花することはなかった。それでも「ミスターX」の呼称は、今なおコアな野球ファンの記憶に残っている。菊地自身も現在まで「隠し玉」として矢野の指名を振り返っている。
ドラフト会議は、誰がどの球団に指名されるかだけが見どころではない。球団の身売りに翻弄されたドラ1、史上18位で指名された選手、特定球団と不思議な縁を持つ社会人チーム、名前まで伏せられた“隠し玉”。60年以上の歴史を振り返れば、指名の数だけ物語がある。
今年のドラフトでは、後世まで語り継がれるような新たなドラマが生まれるだろうか。10月22日の会議を、そんな視点から眺めてみるのも面白そうだ。






