『風、薫る』『豊臣兄弟!』にも登場した言葉「させていただく」は…“自分の意志なのに他人に責任転嫁する”日本衰退の象徴
歴史的描写で続けざまに「させていただきます」
先日、NHKのドラマを見ていて、違和感を覚える経験が二度続いた。ドラマの内容ではなく登場人物のセリフに関して、「この人物がこの場面で、そんな言い方するわけない!」と強く感じることが、別々の番組で連続したのである。しかも、それらはまったく同じ言葉だった。
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まず、9月25日に放送された連続テレビ小説『風、薫る』の最終回でのこと。一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)のもとを、看護婦養成所で同期だった玉田多江(生田絵梨花)が訪ねてきた。直美が「派出(看護)の依頼?」と聞くと、「出版祝い。本屋にも並んでたわよ。おめでとう、りんさん!」と多江。りんが執筆し、ようやく刊行された看護の指南書を購入し、祝いを言いにきたのだった。
りんがお礼を述べ、直美も「お買い上げありがとうございます」と頭を下げ、「よかったら10冊でも100冊でも」と言葉を継ぐと、多江はこう答えたのである。「それは婦長の私が拝読して決めさせて(、、、、、)いただきます(、、、、、、)」。自分が決めればいいことに対し、「決めさせていただきます」という、気が引けているまどろっこしい言い方を、この時代(明治時代)を生き、婦長としての自負をもつ多江がしたはずがないのだが。
そう思っていたら2日後の27日、大河ドラマ『豊臣兄弟!』の第37回「秀長の国」に、以下のような場面があった。四国の平定を終えた羽柴秀吉(池松壮亮)は、畿内周辺の領土を再配分し、大坂城に集まった大名たちに申し渡した。命令を読み上げたのは浅野長吉(大地伸永)で、蜂須賀正勝(高橋努)に対しては、「四国での軍功、比類なし。よって阿波(註・徳島県)一国を授ける」と告げられた。
ところが正勝の返答は、「謹んでお断り申し上げる」というものだった。「過分なるお取立て、身に余る誉れにござる。されど、それはどうか伜の家政におあたえくだされ」と述べる正勝に、秀長(仲野太賀)は「にわかになにを?」と問い返したが、正勝は答えた。「にわかではござらぬ。四国より戻ってこの方、考えておりました。これよりは後進に道を譲り、拙者は隠居させて(、、、)いただきとう(、、、、、、)ございまする」。
蜂須賀正勝のような交渉力にもすぐれた手練れの武将が、、隠居を申し出る重要な場面で、現代のビジネス敬語を思わせる、こんなまどろっこしい言葉遣いをしたはずがない。
本来は許可と恩恵を表す言葉
「させていただきます」の濫用に対し、比較的早い時期に苦言を呈したのは、作家の丸谷才一だった。1986年に刊行された『桜もさよならも日本語』(新潮社)に〈最近の日本における「させていただく」の大洪水は閉口ものだ〉〈現代日本人はあの慇懃無礼に恩を買ふ…欺瞞的低姿勢の語法をもうすこし慎むほうがいいと思ふ〉と書いている。
それからすでに40年が経過したが、最近は丸谷が嘆いた当時の状況をはるかに超える水準で、この言い回しは、ありとあらゆる場面で濫用されている。まさに「大洪水」と呼ぶにふさわしく、丸谷が嘆いた当時の状況など、いまにくらべれば「若干の増水」にすぎなかったのではないか、とさえ思う。
「させていただきます」という言い回し自体が、日本語としておかしいというのではない。元来の含意が顧みられずに濫用され、結果として、きわめて無責任な言い方になっているところに問題がある。では、元来はどう使うべき表現なのか。平成19年(2007)2月2日の文化審議会答申に、適確にまとめられているので引用する。
〈「(お・ご)……(さ)せていただく」といった敬語の形式は、基本的には、自分側が行うことを、ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い、イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。したがって、ア)、イ)の条件をどの程度満たすかによって、「発表させていただく」など、「…(さ)せていただく」を用いた表現には、適切な場合と、あまり適切だとは言えない場合とがある〉
簡単に言えば、相手や第三者の許可のもとで行うことに対し、恩恵や感謝の気持ちを表すのが「させていただく」だということである。許可を求める際にも用いられるが、何にでも付ければ丁寧になるというものではない。
たとえば、知人から催しに招かれ、感謝の気持ちを示したいとき、「よろこんで参加(出席)させていただきます」と答えるのは、文化審議会答申に沿って言えば「適切な場合」に該当する。体調が悪くて会議への出席を躊躇していたとき、主催者から無理しないで休むように言われ、ありがたいと思って、「お言葉に甘えて欠席させていただきます」と答えるのも、「適切な場合」になる。
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