「タランティーノ監督」にも影響を与えた昭和の天才絵師「上村一夫」…没後40年を経て海外で熱狂的な人気を誇る理由
1970年代に描かれていた“美少女”〈銀子〉は……
ところで、先述の海外での人気ぶりだが、近年はフランスだけでなく、イタリアで熱狂的な人気となっている。
「実は、カターニャ大学人文学部で日本文学の研究をされている、パオロ・ラ・マルカ教授が父の大ファンで、おどろくほど詳しいんです。来日された際に、うちの書庫を見ていただいたのですが、原画を見て、家族でもわからないような作品の題名を判定されるので、びっくりしてしまいました」
このパオロさんの協力もあり、イタリアでの出版が続々と進むようになった。『同棲時代』『しなの川』『関東平野』などの名作のほか、『怨霊十三夜』『ラブ』といったマニアックな作品の刊行もつづいている。
実は新潮社では、筆者が編集担当で、1989年に名作『関東平野』全4巻を復刻刊行している。1976年に「ヤングコミック」(少年画報社)で連載、上村氏自身が自らの半生をモデルに描いた自伝的戦後史である。作中には、広告代理店時代に知り合い、盟友となる阿久悠氏を思わせる人物も登場する。さらに特筆すべきは、子ども時代の親友に〈銀子〉という美少女(実は男の子)が登場することだ。おとなになって東京に出てからも、ゲイバーにつとめながら、主人公・金太(上村氏がモデル)とつかず離れず、互いに励まし、慰め合いながら生きていく。
「いまでこそ、LGBTQということばが生まれ、マンガでもふつうに描かれるようになりましたが、1970年代に、このようなキャラクターを描いていたことにおどろきます。それだけに『関東平野』は、海外では“いまの作品”として読まれているようです」
主としてヨーロッパ圏では、マンガを電子書籍で読む習慣が日本ほど普及していないので、紙の本が中心である。そのせいか、上村作品の海外版は、どれも立派な造本と美しいデザインで刊行されている。
「父はよく、『ひと(との関係)を大切にしろよ』と言っていました。そのことばの意味がわかってきたのは、つい最近のことです。不思議なことに、さまざまな方々が自然と寄ってくださり、新たな仕事につながっていくのです。父は早くに亡くなってしまったので、生前は、あまり深い付き合いができませんでした。それが、いまになって、本格的なコミュニケーションをとっているような気がするんです」
上村一夫、没後40年――海外のみならず、来年には、国内で画集の刊行も予定されているという。“昭和の絵師”は、時代を超えて、愛されつづけていく。
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