「沖縄県知事選挙」で新人「古謝玄太氏」が現職「玉城デニー氏」をリードの声も…古謝氏に囁かれる“弱点”と、選挙戦のカギを握る「妻の熱すぎる応援演説」
「保守ワンチーム」
沖縄県知事選挙が8月27日に告示された。投開票日の9月13日(日)を前に、選挙戦は事実上の一騎打ちになりつつある。具体的には「保守系新人・古謝玄太氏(42)」と、「3選を目指す革新系現職・玉城デニー氏(66)」との攻防である。両者の戦いは、まれに見る大接戦の様相を呈している。【篠原章/批評家】
(全2回の第1回)
【写真を見る】言葉を詰まらせ、手を震わせながら応援演説に臨む古謝玄太候補の妻・亜希子さん。地元では「選挙結果を左右する」ほどの注目度だという。
告示前日の8月25日、無所属で出馬を予定していた元衆院議員・下地幹郎氏が突如、立候補を取り下げた。理由として示されたのは、自民党本部との「政策合意」――。子供の貧困対策300億円、鉄道整備の5年以内の道筋、2030年サミットの沖縄再誘致、そして辺野古移設を2036年に完了させたうえで普天間返還の期日を確定させるという、4項目の公約である。
8月30日、那覇市内で開かれた下地氏の後援会集会には、鈴木宗男参議院議員が駆けつけ、平成8年の初当選以来30年にわたる盟友関係を切々と語った。会場には自民党の鈴木俊一幹事長、西村康稔選対委員長からの祝電も届けられ、「保守ワンチーム」の完成が高らかに宣言された。
もっとも、鈴木氏がこの席で語った過去の実績談については、地元の県政関係者から事実との齟齬を指摘する声も出ている。感動的な語りの説得力と、その内容の正確性とは、別の問題として切り分けて聞く必要があるだろう。
自民党沖縄県連に対して敵対的な行動を取り続けてきた下地氏が撤退の見返りとして何を得たのかについても、憶測が広がっている。地元政界の観測筋の間では、次期参議院選挙の比例名簿での処遇を党本部が「前向きに検討する」という、書面によらない口約束を取り付けたのではないか、との見立てが根強い。
だとすれば下地氏にとって今回の決断は、無償の降板ではなく、党本部との個別交渉による将来への布石という色彩が強くなる。同時にそれは、下地氏の政治的な利害が、地元の沖縄県連の利害とは必ずしも一致しないことを意味する。県連からは「県連の頭越しの合意」という批判が聞こえてきており、「統一」はたんなる演出に過ぎず、選挙の最前線で戦う組織が完全に納得しているわけではない。
公明支持層の離反リスク
また、公明党沖縄県本部が古謝氏を推薦しているのは事実だが、これは下地氏の合流とは別系統の動きである。公明党は、下地氏と激しく戦った故・白保台一氏をめぐる確執以来、下地氏に対して根深い反目を抱えてきた歴史を持つ。下地氏が古謝陣営に加わったこと自体が、公明支持層の一部の離反を呼ぶ可能性すら指摘されている。
下地氏個人の支持基盤の行方については、見立てを修正する必要がある。8月30日の後援会集会に集まった熱気を見る限り、下地氏本人の後援会票、長年の個人後援会や地盤支持者の票は、相当程度が古謝陣営に吸収されつつあると見てよいだろう。無論、全てが移り替わるわけではなく、一定の目減りは避けられない。問題は、この下地個人票の吸収と、公明党という組織票の動向とが、まったく別の軸にあるという点である。下地氏個人の票が古謝陣営に流れ込む一方で、公明党の組織票が、下地氏への反発から離れていくのか、それとも古謝氏本人への評価によって留まるのか、この点は現時点でなお不透明である。
下地氏本人は壇上で「皆さんを裏切った」「私にはもう道がない」と繰り返し口にし、土下座までしてみせた。これは戦略的撤退を語る政治家の言葉ではなく、追い詰められた末の選択を示す言葉と見ることも可能だ。4項目の公約にしても、その実現は国の予算措置と将来の政権の意思にすべて依存しており、下地氏や古謝陣営が担保できるものは何一つない。
保守分裂の解消という、選挙戦術上は疑いなくプラスの材料を得ながら、それでもなお古謝陣営には拭い切れない弱点がある。それが、候補者本人の「持ち味」の問題である。
行政官僚出身で物腰は丁寧、政策理解も深い古謝氏だが、沖縄の知事選という舞台では、この「役人出身の生真面目な若手」という持ち味が、必ずしも有権者の心をつかむ材料にはならないということだ。若さや几帳面さよりも、年輪を重ねた貫禄や土地に染み付いた泥臭さが評価されてきた土壌があることは、過去の選挙を振り返れば明らかだろう。
選挙戦の組み立てにも硬さが見える。動員効果の高い曜日に、まだ古謝氏を直接見たことのない有権者が多い地域を優先して回るといった、緻密な戦術が徹底されているとは言い難い、という指摘も陣営周辺から聞こえる。
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