「特殊詐欺被害は1日10億円」「詐欺は“割の良い”犯罪」 作家・黒川博行×ノンフィクション作家・森 功 犯罪を追う二人が語る「トクリュウ」「地面師」

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事件解決後も残る「謎」

 詐欺は、そこまで警察も追っかけてこないっていう利点はありますよね。10億だまし取ったとして、それを隠しておけば、5年間刑務所行っても、充分割に合う。

黒川 犯罪としてはすごく効率が良いし、罪もそんな重くない。なかなかいいものですね(笑)。殺人未遂や強盗未遂とは違って、詐欺未遂は罪に問われても長期刑にはならないからやりたい放題です。地面師なんて、うまくいけば一件で何十億ですし。

 ただ、地面師は簡単にはできませんよ。入念な準備が必要です。地主になりすます役者を用意して、偽造書類を作る道具屋がいて、不動産取引の知識もいる。全体を仕切るプロデューサーになるには、かなりの経験が必要です。

黒川 やっぱり修業が必要でしょうか?

 何度もやって、捕まって、刑務所から出て、またやる。その繰り返しでノウハウを蓄積していくんです。

黒川 生まれ変わったら、詐欺師を目指しますかね。口はうまくないけど、考える頭はあるから、絵が描ける。詐欺師として生きていけるかもしれん。

 その才能は小説にだけ使ってください。

黒川 森さんは、事件を追い続けて何が一番面白いですか?

 事件って、最後まで全部は分からないんですよ。警察が捜査して、裁判になっても、全ての真相が明らかになるわけではない。

黒川 捜査にも限界があるからね。

 そうです。捜査は完璧ではないし、必ず積み残しがある。その「分からない部分」を追っていくのが面白いんです。積水ハウスが、なぜ55億円もの地面師詐欺にだまされたのか。表面だけ見れば「プロの不動産会社がなぜ?」と思う。そういう疑問を一つずつ追っていくと、単なる犯罪事件ではなくて、その会社の内部事情や人間関係、社会の構造まで見えてくる。

黒川 僕も事件を書く時、犯罪の手口そのものより人間の方が面白いと思って書いています。なんでこいつがこんなことをするようになったのか。どこで人生がそういうふうに転がったのか。

 事件を追っていると、政治も経済も暴力団も企業も、結局どこかでつながってくるんですよね。一つの小さな事件から始めたはずなのに、掘っていくと想像もしなかった大きな構造にぶつかる。

黒川 「この事件は化ける」と最初から分かるんですか。

 いや、全然(笑)。僕が『地面師』を書いたのも、友人が、積水ハウス事件とは別の地面師にだまされたのがきっかけです。「警察に言った方がいいよ」と相談に乗って、それでも警察がなかなか動かないから、「じゃあ書いてみようか」と。

黒川 僕の『後妻業』も同じです。知り合いが被害に遭って、「悔しいから書いてくれ」と言われました。刊行してすぐに、実際に同じ構造の犯罪が摘発されて「時代を先取りした」とか言われましたが、そんな格好いい話じゃない。

 偶然なんですよ。ただ、そこで「これは一体どういうことだろう」と思うと、追いかけずにはいられなくなる。

黒川 分からんから面白い。

 そうです。事件には必ず「分からない」が残る。その謎を追い続けるのが、僕らノンフィクションを書く人間の仕事なんでしょうね。

黒川 小説の場合は、最後は自分で答えを作れるけどね。

 「生まれ変わったら詐欺師になる」とまで書ける。

黒川 いや、それは小説じゃなくて本音です(笑)。まあ、フィクションでもノンフィクションでも、事件そのものを見ているのではなくて、その向こうにいる人間を見てるんでしょうね。

 そう思います。なぜこんな事件が起こったのかを追っていくと、今の日本社会そのものが見えてくる。『流砂』も、まさにそういう小説だと思いました。

黒川博行(くろかわひろゆき)
作家。愛媛県生まれ。『キャッツアイころがった』でサントリーミステリー大賞、『カウント・プラン』で日本推理作家協会賞、『破門』で直木賞、『悪逆』で吉川英治文学賞を受賞。映像化作品も多く、『国境』が映画化(井筒和幸監督)され2027年に公開予定。

森 功(もりいさお)
ノンフィクション作家。福岡県生まれ。2008年、2009年に「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を連続受賞。『悪だくみ』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。主な著書に『黒い看護婦』『同和と銀行』『地面師』『地面師vs.地面師』など。

週刊新潮 2026年9月3日号掲載

「『流砂』発売記念対談 作家 黒川博行×ノンフィクション作家 森 功 解明しきれないから面白い 『トクリュウ』『地面師』の謎」より

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