「特殊詐欺被害は1日10億円」「詐欺は“割の良い”犯罪」 作家・黒川博行×ノンフィクション作家・森 功 犯罪を追う二人が語る「トクリュウ」「地面師」
特殊詐欺被害は1日10億円
森 数字を見ると、なおさら驚きます。2026年上半期の特殊詐欺被害は、認知件数が2万2031件、被害額が1816億円を超えた。前年同期と比べて件数は18%余り、被害額は実に5割以上増えています。1日平均にすると約10億円です。
黒川 日本の国力は落ちてるし、新しい産業はなかなか育っていないのに、詐欺だけが売り上げを伸ばしてる(笑)。
森 しかも今は、オレオレ詐欺だけではない。SNS型投資詐欺やロマンス詐欺、ニセ警察詐欺と、手口がどんどん広がっています。トクリュウ犯罪の怖さは、事件が起きても全貌がなかなか見えないことですよね。
黒川 ほとんど捜査が追いついていません。みんな、警察というのは事件が起きたら何でも徹底的に捜査すると思ってるけど、そんなことないですよ。
森 詐欺事件は、資料も膨大で特に難しい。
黒川 難しいし、決定的に人員が足りてませんね。捜査費もかけられない。殺人事件とか、世間で騒がれた事件なら別でしょうけど、そこらへんの詐欺事件を全部追うなんて無理ですよ。警察にも「捜査経済」という考え方があって、これだけ人と金をかけて、どれだけ成果が上がるかという話になる。
森 だから、末端の受け子や出し子、強盗の実行犯は捕まっても、その先にいる指示役まで上がれない。
黒川 実行犯なんて最初から使い捨てですから。指示してる方は、自分の名前も顔も教えていない。
森 さらにグループ自体が事件ごとに形を変える。一つの組織を壊滅させれば終わり、という暴力団型の捜査が通用しにくい。警察庁がわざわざ全国横断の専門チームをつくっているのも、それだけ従来の捜査では追いにくいからでしょう。
黒川 金の流れも複雑ですからね。
森 例えば地面師事件でも、何十億円という金が最終的に誰の手に渡ったのか、“全貌”は解明されていない。トクリュウならなおさらです。犯罪集団からすれば、捕まる可能性が高い仕事だけ下っ端にやらせればいい。
黒川 よくできたシステムです。
「『アホ、ボケ』言うて切りました」
森 そんな相手から、私たちはどう身を守ればいいんでしょう。
黒川 一番は電話に出んことです。
森 ものすごく単純ですね(笑)。
黒川 でも、それが一番です。どんな特殊詐欺も、最初の一歩は電話ですから。知らない番号や非通知の電話には出ない。高齢者は電話が鳴ったら出てしまうので要注意です。しかも、「自分だけはだまされへん」と思ってる人ほど危ない。
森 最近は警察官や弁護士、銀行員など、社会的信用のある職業になりすます手口も多いです。
黒川 僕は不思議でしょうがないんですけど、「警察です。あなたの身の潔白を証明するために、金を振り込んでください」と言われて、どうして信じてしまうんでしょうね。
森 やはり「警察がうそをつくわけがない」という思い込みがありますからね。詐欺師はそこを利用する。
黒川 うちにも給湯器の点検を名乗る電話がかかってきたことがありますよ。「給湯器の点検をしてます」と言うから、「あんた、うちの給湯器のメーカーどこか知ってんの」と聞いた。
森 そうしたら、何て?
黒川 「知りません」て(笑)。知らんのになんで点検すんねん。おもろいからしばらく相手してたんですけど、だんだん腹が立ってきて、最後は「アホ、ボケ」言うて切りました。
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