【風、薫る】演じながら急成長している直美役「上坂樹里」 大化けの背景にモデルと全然違う複雑な境遇

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放送期間中に異例の成長ぶり

 2005年の生まれで、この7月に21歳になったばかりの上坂樹里。現在、NHK連続テレビ小説『風、薫る』で大家直美役を演じ、一ノ瀬りん役を演じる見上愛とともにダブル主演を務めています。役の上では見上と同い年ですが、実年齢は2000年10月生まれの見上より5歳年下。しかも、見上は演技に定評がありますから、ドラマがはじまった当初は、見上とくらべると上坂は、演技が多少ぎこちないように感じられたものです。

 ところが、それから4カ月近くがすぎて、上坂の演技力が目に見えて深まっているので驚かされます。たしかに連続テレビ小説、つまり朝ドラの多くは、ヒロインの成長物語ではありますが、6カ月の放送期間中に女優の演技力そのものが、これほど明らかに成長を遂げた例は、あまりないのではないでしょうか。

 20歳から21歳という、若すぎてまだ経験が乏しい時期に撮影がはじまったので、伸びしろが大きかったという指摘は可能だと思います。加えて、モデルになった鈴木雅(1857~1940)からは設定がかなり変えられていて、それゆえに演技が難しくなったことも、成長につながったのではないかと想像されます。

 では、史実の鈴木雅とドラマの大家直美は、どのように違うのでしょうか。そのことを確認する前に、上坂の成長が感じられた場面を振り返っておきたいと思います。

直美の心を生きるように演じた

 第16週「新風吹くころ」(7月13日~17日放送)では、舶来品などを広くあつかい、りんや直美が深く関わっている瑞穂屋で、店員の柳川文(内田慈)が突然倒れました。直美は文に、帝都医大付属病院の受診を勧めますが、文は断るので、直美は勝手に文の家を訪れて看護するようになりました。

 あるとき、文がうたた寝している瞬間に髪ひもを見ると、裏地が直美のお守りの袋と同じ柄ではないですか。それを見た瞬間の、直美の息を呑んだ表情から、上坂は一瞬の表現で心のなかを見せられるのだ、と気づかされ、筆者も息を呑むハメになったのです。

 そして第17週「脈動」(7月20日~24日放送)では、直美と文の交流を中心に描かれました。直美は文に、自分の母親ではないかと聞きますが、文は否定します。しかし、知人の寛太(藤原季節)に調査を依頼すると、文は錦栄楼にいた元女郎の夕凪、つまり直美の母親でまちがいないという話でした。

 そうはいっても、文に一度、「名前もつけずに赤ん坊を捨てるような女に見えるってことですよね?」といわれていた直美は、母娘だと認め合うことはできない、とあきらめかけます。しかし、直美の事実上の育ての親である牧師の吉江善作(原田泰造)から、本当に患者と看護婦の関係でいいのか、と問われると、本心を打ち明けました。

 このとき打ち明ける前の、心の微妙な揺れを掬い上げたような表情が、心の奥底とつながっているように見えました。そして、こう語りました。

「本当は、本当は言いたいこと、たくさんある。許したわけじゃない。なんで捨てたの、なんで名前もつけてくれなかったの、って、子供のころからずっといいたかった。だって、大変だったから。つらかったから。親がいないせいで、あんたがいないせいで私……。だから、謝って、謝って、抱きしめてほしかった。おっかさんって呼んでみたかった」

 涙をこらえるような作り笑いをところどころに交えながら、心の底から言葉を掘り起こし、その言葉が感情を誘い出して、自然に涙がにじみ、あふれ、怒りを湧き上がらせながらも、母への憧憬がそれを超えていく――。そんな瞬間を、まさに直美の心を生きるように演じるものですから、見ている筆者も涙を禁じ得ませんでした。

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