「スマホ通知」で途切れた集中は「元に戻るまで23分」……気鋭の脳科学者が解説する「脳の持久力」の正体とは

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 人工知能と脳。しばしば同じ「思考するもの」として語られるが、脳科学者の毛内拡氏は、両者を単純に同一視することには慎重だ。脳は身体から切り離された情報処理装置ではなく、全身と相互作用しながら働く臓器である。では、AI時代に人間の脳に固有の役割とは何か。「脳の持久力」をキーワードに、脳細胞の一種・アストロサイトの働きから考える。

〈2026年7月17日に「新潮QUE」で配信した記事をもとに再構成しました〉

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アストロサイトが織りなす「脳の持久力」

 AIと人間の思考は、物理的な基盤が違うだけでなく、得意な働きも違います。AIは、問いと条件が与えられたときに、膨大な情報からもっともらしい答えを素早く出すことに非常に強い。すでにその点では、人間を上回る場面も多いでしょう。では、こうした時代にあって人間に必要な「知性」とは何か。私は、「すぐには答えが出ないものに向き合い続ける力」だと考えています。不確実な状況に中腰で耐え、途中で放り出さずに考え続ける「持久力」です。そしてそれは、比喩としての精神力だけではありません。実際に、脳が働き続けるための生物学的な持久力も関わってきます。

 ただ、「脳の持久力」と言っても何を指しているのかを明確にしなければ、単なる根性論になってしまいます。そこで私がその重要な実体の一つとして注目しているのが、「アストロサイト」という脳細胞です。

 脳細胞と聞くと、多くの方がまずニューロン(神経細胞)を思い浮かべるでしょう。現在、ヒトの脳全体にはおよそ860億個のニューロンがあると見積もられています。ニューロン同士はシナプスと呼ばれる接合部を介してネットワークを形成し、神経伝達物質や電気的活動を通じて情報伝達を行います。ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質は、意欲、報酬、気分、注意など多様な脳機能に関わっています。ただし、脳の働きはニューロンだけで説明できるわけではありません。

 ニューロン以外の重要な細胞群が、グリア細胞です。アストロサイトはその代表的な一種で、ニューロンを支えるだけでなく、代謝、血流、細胞外環境、シナプス機能などに関わる「もう一つの主役」と言ってよい存在です。

 例えば、ニューロンは活動にともなって多くのエネルギーを消費します。アストロサイトは血管とニューロンのあいだに位置し、グルコースの取り込みや乳酸の供給、グリコーゲンの貯蔵などを通じて、神経活動を代謝面から支えます。アストロサイトがつくる乳酸がニューロンのエネルギー基質として使われる、いわゆるアストロサイト・ニューロン乳酸シャトル仮説は議論もありますが、少なくともアストロサイトが神経活動のエネルギー環境を調整していることは重要です。

「スマホの通知」で途切れる集中「元に戻るまでの23分」

「脳の持久力」を考えるうえでは、アストロサイトを含む脳内環境を働かせるだけでなく、過剰な負荷を減らすことも重要です。一般向けには私はこれを「脳疲労」と呼んでいますが、医学的な病名というより、注意や認知資源が慢性的に消耗している状態を指す言葉として使っています。

 私たちは、かつてとは比較にならない量の情報に日々さらされています。地球の裏側のどこの誰かも知らない人が昼ご飯に何を食べたかまで知る必要がなくても知ることができてしまう。どんなに頭がいい人でも、注意を向けられる容量には限りがあります。余計な情報に注意を奪われ続ければ、本当に考えるべきことに向かう力は削られていきます。

 脳にとって大きな負荷になるものの一つが、「予期できない」刺激です。例えば、動物実験では、予測できないタイミングでケージを傾ける、光を点滅させるといった慢性予測不能ストレスのモデルが用いられます。こうしたストレスが続くと、マウスにうつ様行動が現れ、脳内ではミクログリアやアストロサイトを含むグリア細胞の反応、炎症関連シグナルの変化が観察されることがあります。研究では制御された条件でストレスを与えているわけですが、現代人はそれに近い刺激を、自分で生活に呼び込んでいる面があるかもしれません。

 その代表例がスマホの通知です。仕事中や勉強中でも、スマホに通知が来ると、たとえ内容が重要でなくても注意は一度そちらへ持っていかれます。カリフォルニア大学アーバイン校のGloria Markらの研究では、中断された作業に戻るまで平均で約23分かかることが報告されています。これは「23分間、完全に集中できない」と単純化するより、元の文脈を取り戻すには時間がかかる、という意味で捉えるべきです。見てみたら興味のないクーポンだった、という小さな中断でも、脳にとっては文脈の切り替えです。

 脳のためにも、私はスマホの通知を切ることを勧めています。通知が来たから見るのではなく、自分で見ると決めたタイミングで見る。この違いは小さく見えて、脳にとっては大きい。現代人は慢性的に注意を分断され、過剰な情報処理を求められています。その結果、アストロサイトを含む脳内環境の調整が追いつかず、脳はさらに省エネ化を求める。答えのあるものには素早く飛びつけるのに、答えのない問題にはじっくり向き合えない。そうした状態が、いまの私たちの脳で起こっているのかもしれません。だからこそ、脳の持久力を守るには、もっと刺激を足すことではなく、脳が自分のリズムを取り戻せる余白をつくることが必要なのです。

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 それでは、「脳の持久力」はどのように高めればよいのか。「新潮QUE」にて公開中の関連記事【スマホ通知で途切れる集中「元に戻るまで23分」――アストロサイトから考える「脳の持久力」の高め方】では、アストロサイトの働きから脳の持久力を高める「3つの方法」について詳述している。

毛内拡(もうない・ひろむ)
お茶の水女子大学ヒューマンライフサイエンス研究所助教。1984年北海道函館市生まれ。2013年東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教を経て2026年より現職。専門は神経生理学、生物物理学。主な著書に、『脳を司る「脳」―最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき』(講談社ブルーバックス)、『「頭がいい」とはどういうことか―脳科学から考える』(ちくま新書)など。

デイリー新潮編集部

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