市場規模2300億円に迫る「コワーキングスペース」での迷惑行為…「香水」の匂い以上にキツかった“音の正体”は? 「さすがに“家でやってくれ”と思いました」

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コワーキングのメリット

 それにしても、これだけ人の行動が気になるのなら、改めて「家でやれ」と、自分でも思う(まあ、人間観察こそライターの仕事ではあるのだが)。

 が、それでもコワーキングに通い続けるのには、そんな五感の阻害に勝る「メリット」があるからだ。そのメリットは、何と言っても「公私の切り替え」だ。

「時間も場所も格好も選ばず、家で仕事ができる」というのは、フリーランス最大かつ唯一ともいえる長所だ。しかし、プライベート空間においては、仕事とのオン・オフの切り替えが本当に難しい。

 それは、「仕事をしたくないから」ではない。むしろ、これまで「オフ」がないほど日々仕事のことばかり考えている人こそ、目の前の家事が気になり、労働生産性が上がらないような気がする。

 昔、あれだけ「ラッシュの電車に揺られながらオフィスに通勤する生活なんて絶対に嫌だ」と思っていたのに、その朝の儀式をとげてたどり着いた先の無機質な机で始める仕事は、自宅でとは比較にならないほど効率的に進むのだ。

 感覚的には「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」に近いのかもしれない。

 もう一つ、集中できる要因は、同じようにタスクに追われている人の存在だ。長いこと、同じコワーキングに通い続けると、「常連客」を認識するようになる。

 本当に勝手に思っているだけだが、筆者と同じく、毎日コワーキングの開店時間から来ている同じ顔触れの利用者たちを見ると、一度も話したことはないのに、底知れぬ連帯感のようなものを抱く。

 閉店まで一緒に粘れば、職種はもちろん名前も知らないその“同僚”に、自分自身が励まされていることに気付くのだ。そして、いつも出退勤時に笑顔で出迎え、送り出してくれる店の店員もまた、コワーキングの心強い“同僚”であることも書き添えておきたい。

 現在、コワーキングやそれに準ずる機能を持つ施設は、国内に3000店舗ほどあるといわれている。そのうち約1000店舗は東京都内だそうだ。2026年度のコワーキングを含むフレキシブルオフィス市場規模は、2300億円となるとも言われる。

 働き方が多様化するなか、こうした施設は今後も進化を遂げながら増えていくのだろう。一方、利用する側も、他客への配慮はもちろん、自身の常識の許容範囲も広げる必要があるのかもしれないと、今日も今日とて、爪を切る音が響く空間で、この原稿を書いている(やはり爪切りだけは受け入れ難い)。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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