夏目雅子、池上季実子、十朱幸代、秋吉久美子、南野陽子…鮮烈な“男と女”を描く「原作・宮尾登美子」映画5選
女優2人の壮絶な乱闘シーン
〇「陽暉楼」(1983年)
西日本一を誇る土佐の料亭・陽暉楼を舞台に、そこでくり広げられる様々な人間模様を描く。再び五社英雄監督がメガホンをとった。
「芸妓娼妓紹介業」の勝造(緒形拳)は、貧しい家の娘を斡旋する女衒だ。勝造と女義太夫・呂鶴(池上季実子)との間に生まれた桃若(池上季実子=二役)は、陽暉楼で売れっ子芸妓になっていた。勝造の愛人・珠子(浅野温子)は、呂鶴と桃若への敵対心から陽暉楼の芸妓になろうとしていた。女たちの愛憎と地元経済界の勢力争いが絡む、テンポの速い展開に目が離せない。
勝造役は仲代達矢が予定されていたが、黒澤明監督「乱」(1985年)の主役が決まったため出演できなくなる(春日太一『鬼才 五社英雄の生涯』文春新書)。そこで起用されたのが緒形拳だ。「鬼畜」(1978年)や「復讐するは我にあり」(1979年)で見せた冷徹さをここでも発揮し、その圧倒的な存在感で作品に重厚さをもたらした。
そして本作で大きな話題となったのが、女たちの乱闘シーンだ。池上と浅野がダンスホールのトイレで、転げ回り髪の毛を引っ張りあう壮絶さは息をのむ。五社監督は撮影前に「どちらが主役かはできあがった映画が決めてくれる」「口をきいちゃいけない」と、お互いの感情を煽りこのシーンを撮ったという(『鬼才 五社英雄の生涯』)。
「鬼龍院」で夏目雅子がスターになったことで、女優たちは五社作品への出演を熱望した。そして「陽暉楼」は、侠客の世界を描きながらも、女性客から大きな支持を得たという。女性たちの困難な人生を描く宮尾の原作と、五社のほとばしる情念が融合した幸福な結果だろう。
宮尾の自伝的作品
〇「櫂」(1985年)
宮尾の出世作であり、これまで語らずにいた生家の「芸妓娼妓紹介業」を取り上げ、太宰治賞を受賞。不遇だった時期を脱し大作家への道を歩むきっかけとなる作品だ。五社英雄監督が宮尾作品の中では最も撮りたかったという作品で、3部作の掉尾を飾る。
土佐の遊郭で女衒をしている富田岩伍(緒形拳)は、女義太夫(真行寺君枝)との間に生まれた綾子(高橋かほり)を妻の喜和(十朱幸代)に預ける。最初は拒否していた喜和だったが、しだいに我が子以上の愛情を注ぐようになる。
喜和は自分の尺度だけで生きる夫に愛想をつかし家を出る。これまでの男社会の論理に翻弄される女ではなく、自らで道を切り開いていく女性が描かれる。血の繋がっていない綾子を実の子のように可愛がる姿は慈母のようだ。演じた十朱はこれが代表作となる。
綾子は宮尾自身をモデルにしている。この後、「春燈」「朱夏」「仁淀川」と続き、宮尾が作家になるまでの道のりが書かれた。宮尾自身は育ての母を後年まで慕い続けたという。この作品が書かれた背景や実際の親子関係などは、林真理子の『綴る女 評伝・宮尾登美子』(中公文庫)に詳しいので、興味のある方は一読をおすすめしたい。
本作には宮尾が出演していてセリフもある。なかなかの役者ぶりなので、どの場面か探してみるのも面白いだろう。
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