元警察庁サイバー捜査課長が明かす「栃木強盗殺人事件」は「これまでのトクリュウ事件と違う」という論調への疑問

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 16歳の少年4人が実行犯として逮捕され、まとめ役の夫婦、さらにはその指示役にまで捜査の手が及んでいる栃木県上三川町の強盗殺人事件。「トクリュウ」(匿名・流動型犯罪グループ)の絡む犯罪として全容解明が急がれているが、今そのトクリュウの実態も移ろいつつあるという。事情に詳しい、元警察庁サイバー警察局サイバー捜査課長の棚瀬誠氏が明かす。

「匿名化作業」をできていなかった?

「サイバー犯罪」と呼ばれるものはひと昔前まで、技術を持った者がウイルスを作ったり、不正アクセスしたりするなどのピュアな意味でのサイバー犯罪が多かったのですが、インターネットが発達し、今ではSNSを悪用した時点で「サイバー犯罪」と定義されるようになりました。サイバー捜査においては、SNSのアカウント所有者を特定できるか、闇バイトの募集にいかに潜り込むか、といった取り組みが日々続いています。

 今回、最初に逮捕された16歳の少年は神奈川県在住でした。早期に次々と逮捕されたことから、実行役の少年たちと"現場監督"である海斗容疑者がやりとりしていたアプリをトレースしたところ、すぐに本人特定ができた可能性があります。つまり容疑者らは、いわば“飛ばしのスマホ”や“飛ばしのSNS”といった「匿名化作業」をしていなかったのではないか、とみています。

 役割分担としては全員が「実行役」で、現場に土地勘がなく、誰かに情報を提供されていた――。つまり、奥に首謀者がいるということです。容疑者夫婦が芋づる式に捕まった段階で、まさにトクリュウ事件の「典型例」だと感じました。

「これまでのトクリュウ事件と違う」という論調への疑問

「トクリュウ」の定義とは、「首謀者は匿名化をしていて、実行役は流動的に離合集散し、個別の事件ごとに犯罪グループが形成されていく」というもの。首謀者は匿名化しているために、ナンバー1、ナンバー2ぐらいのメンバーまでしか互いに身元が分からない。ナンバー3以下のメンバーは中心に誰がいるのかさえ把握できていないわけです。

 実行役は捕まったとしても首謀者からすれば“トカゲの尻尾”にすぎず、「道具が途中で無くなろうが知ったことではない」というのがトクリュウという犯罪組織の特徴です。

 一部には「これまでのトクリュウ事件と違う」という論調もあるようですが、先の定義に当てはめても、私は何も違わないと考えています。あえて違う点を挙げるなら、実行役が16歳の未成年である点と、実行犯の集め方が人づてで、互いに面識のある人たちが多い点です。脇が甘いか甘くないかは中枢にいる人間の“センス”の問題でしかありません。

闇バイト募集では人を集めにくくなった

 これまでトクリュウ型犯罪では「闇バイト」で実行犯を揃えていたケースが多かったのですが、警察とSNS事業者の対策の効果により、SNSでの闇バイト募集が難しくなっています。SNS事業者はAIを使って隠語のクローリングを行い、長時間同じような案件を募集しているとBANされることもある。警察もサイバーパトロールを行い、応募しそうな若者を“散らす”取り組みをしています。

 また、2025年1月に導入された「仮装身分捜査」により、警察が実際に闇バイトに応募し、実行犯の中に混ざり込むケースもあります。こうした手法がトクリュウ側にも認知されつつあり、結果的に実行犯を集めにくくなっているのです。

 実行のタイミングを急いでいる場合、人づてで仲間を集めるしかなくなります。「もう何人か連れてこい。連れてきたら報酬を1.5倍にしてやる」などとインセンティブをちらつかせる「横展開」――マルチ商法やネズミ講にも似た人集めにシフトしつつあるのではないかという印象があります。

 現場監督的な立場だった竹前海斗容疑者も、SNSで闇バイトに応募した可能性や闇バイト仲間から勧誘されたといった可能性があるとみています。海斗容疑者が地元・神奈川でコントロール可能な未成熟な人間を引きずり込み、さらに仲間を集めさせた。そのため実行犯4人は未成年が集められたのだと推測されます。

 それにしても今回の事件、「さすがに16歳はないだろう」と思います。少年事件では最高刑の無期拘禁もあり得ますし、実行犯の少年らの人生は完全に狂ってしまいます。トクリュウが未成年にも手を出さないといけない状況に追い込まれているのであれば、闇バイトやトクリュウに関わらないよう、いかにそれが“割に合わない”ことなのか、未成年に刺さりやすいメッセージを発し続けることが重要でしょう。

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「匿名」「流動性」が特徴のトクリュウで広がる「マルチ商法」的人集め】と【トクリュウ型組織は卵――中枢である「黄身」を炙り出す捜査手法】の記事では、「卵」に例えることのできるトクリュウ組織図の特徴や実行犯集めに起きているという“変化”、そしてトクリュウを追い込む警察の捜査の最前線について、元警察庁サイバー警察局サイバー捜査課長の棚瀬誠氏が詳細に解説している。

棚瀬誠(たなせ・まこと)
元警察庁サイバー捜査課長。1977年岐阜県岐阜市生まれ。一橋大学法学部卒業後、2000年警察庁に入庁。交番勤務からキャリアをスタートし、兵庫県警察本部刑事部長や警察庁サイバー警察局サイバー捜査課長、アニメ「名探偵コナン」や「ルパン三世」にも登場するINTERPOL(国際刑事警察機構)本部勤務など、国内外の捜査・治安対策の最前線に身を置く。現在はセキュリティコンサルタントとして複数企業の顧問などを務める。

デイリー新潮編集部

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