「特殊浴場」「愛人バンク」「楼蘭」…御年76歳の現役最年長「風俗ライター」が振り返る半世紀 大蔵官僚の秘密の接待店が“しゃぶしゃぶ”だった理由
会員制高級しゃぶしゃぶ店〈楼蘭〉とは
風俗の歴史を語るうえで欠かせないのが、下着を着用しないウェイトレスがいる喫茶店である。伊藤さんは、これらの現場にも立ち会ってきた。
「特に話題になった店が、1980(昭和55)年12月に、大阪・阿倍野にオープンした〈あべのスキャンダル〉です。実際には、その前から、京都や博多で同業種があったのですが、ここは、下着無着用のみならず、上半身も無着用、過激なアトラクションで大盛況。一方、東京では歌舞伎町〈アメリカンクリスタル〉が、床面の通風孔から風が吹き上げてスカートをまくりあげるシステムで大人気になりました」
この“下着なし”で特異な存在を示したのが、新宿・歌舞伎町の会員制高級しゃぶしゃぶ店〈楼蘭〉だった。この店が、一躍、全国に名を轟かせたのは、1998(平成10)年。大蔵省(当時)の接待汚職事件の舞台だったことが報じられてからだった。あくまでしゃぶしゃぶ店だから、領収書もちゃんと出る。まさに、大蔵官僚たちの“秘密の接待場所”だった。だが、一切、取材には応じない。紹介者なしでは入店もできないとあって、実態はなかなか知られなかった。
「いったい、どういう店なのか、なんとか取材できないかと、前々から狙っていました。するとあるとき、同郷の三重県出身で、某政党の職員をやっている友人が〈楼蘭〉の会員だというので、連れていってくれたんです」
店は、あくまでふつうの、いや、かなり高級な雰囲気のしゃぶしゃぶ店だった。
「テーブルごとにミニスカート姿の女性がついてくれます。ドリンクや料理を注文するたびに、この女性が立ち上がる。すると、テーブルの下にカメラが埋め込まれており、スカートのなかを写し、これまた客のテーブルの端にあるモニターに“中継”してくれるのです。バカバカしいと思われるでしょうが、これがすごい迫力なんです。しかも、しゃぶしゃぶも、ちゃんとした料理で、たしかに高級でした」
しかし、なぜ“しゃぶしゃぶ”なのだろうか。ほかの料理や、バー形式でもよかったような気もするが……。
「店の経営者が三重県出身で、高級な松阪牛を仕入れるルートを持っていたんだそうです。だからこそ、高い料金がとれて、官僚接待に利用された。そういえば紹介してくれた友人も三重県出身でした」
われも彼女も老いの只中……
このほか、伊藤さんの著書『ニッポン風俗100年史』には、ありとあらゆる話題が詰め込まれている。秘書付きレンタルオフィス、個室スタジオ、自販機本、テレクラ……枚挙に暇がない。川端康成『眠れる美女』を“実体験”できるイメクラは、中学の元国語教師が借金返済のためにはじめたそうだ。戦前どころか、大正時代の風俗の話題もある。写真も豊富で、なかには、“昭和のオヤジ”が懐かしさをおぼえる光景も。
「よく、こんなに長く風俗取材をしてきて飽きなかったのかと聞かれます。飽きるも飽きないも、そんなことを感じている余裕などありませんでした。それほど、次から次へと、新種の風俗が誕生してきたのです。追いかけてレポートするだけで精いっぱいでした」
だが、さすがに近年は、風営法などの強化もあり、もう新種の風俗は登場しない。
「そもそも、いまは新聞や雑誌が読まれません。情報はすべてネットです。紙媒体の風俗記事も、ほとんどなくなりました。わたし自身も、さすがに76歳では“突撃取材”は無理で、いま書いているのは回想記事、いわゆるむかし話です。それでも、こんな面白い、エネルギーにあふれた時代があったことを、すこしでも知ってもらえればと思って、老骨に鞭打って書いています」
先述のように、本書には、各項ごと、伊藤さんの短歌が収録されている。なにぶん、題材が題材なので、ご紹介できない短歌がほとんどなのだが、あえて一首。先述、伊藤さんが命名に関与した〈愛人バンク 夕ぐれ族〉で、逮捕されてしまった筒見待子女史を回想して――
〈あの日から四十余年月日経ちわれも彼女も老いの只中〉
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