日本の「撮り鉄」はなぜ嫌われるのか 地域住民と共生する「ヨーロッパの鉄道ファン」と比較する
ヨーロッパでは「列車より風景」が主役
一方、ヨーロッパでは事情が大きく異なる。
ドイツやイギリス、フランスなどにも熱心な鉄道ファンは多いが、日本のように編成写真を追求する人は少ない。
「列車だけでなく、風景も含めて作品にしようという考え方が強いからです」と李白さん。
市街地を少し離れれば牧草地や農地が広がり、列車そのものだけでなく周囲の景観にも大きな価値があるのがヨーロッパの魅力だという。
「地中海沿岸には明るい海辺の風景があり、北欧には雄大な山岳地帯があります。中欧では菜の花やひまわり畑の中を列車が走り、オーストリアやスイスではアルプスを背景に撮影できます。さらに東欧には時が止まったような牧歌的な風景も残っています」
だからこそ、わざわざ列車だけを撮るよりも、列車が風景の一部になるような構成が好まれるのだという。
「鉄道文化を支える側」という意識
もう一つ李白さんが挙げる違いが、鉄道保存文化の存在だ。
英国では保存鉄道が観光資源として成立し、多くの鉄道ファンがボランティアとして運営を支えている。ドイツや東欧諸国でも、保存団体が蒸気機関車や旧型車両を維持し、撮影イベントを企画するケースは珍しくない。
「ヨーロッパではファンがお金や労力を出して保存活動に関わることが多いです。単なる利用者というより、鉄道文化を支える側という意識が根付いています」
ヨーロッパでも、若者がインスタに投稿しようと線路内に入ったり、牧草地などの私有地への度重なる無断侵入によって立ち入り禁止の看板が設置されたりするなど、撮り鉄によるトラブルは存在する。
だが、鉄道会社や保存団体とファンとの距離が近いため、日本ほど「撮り鉄=迷惑集団」というイメージが定着していないのだ。
旧共産圏ならではの「撮影への警戒」
ヨーロッパならではの事情として、撮り鉄による迷惑行為よりも、鉄道を撮影する行為そのものに警戒されることがあるという。
李白さん自身、こんな恐怖体験をしたという。スロバキアの地方駅で駅舎を撮影していた際、ある老人から「スパイか?」「警察を呼ぶぞ!」と詰め寄られたのだ。罵詈雑言を浴びせられることも一度や二度ではない。
「旧共産圏では、共産主義時代の監視社会の記憶を持つ高齢者も多く、インフラ撮影への警戒感が残っています」
さらにポーランドでは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて重要インフラの撮影規制が強化された。
対象施設には撮影禁止の看板が掲示されることになっているが、そうではない場所でも鉄道警察による根拠のない鉄道ファン拘束事例が起きている。
これに対し、ポーランドの民間の鉄道保存団体が抗議声明を出す事態に発展している。
バルト3国では、ロシアとつながる列車があり、鉄道そのものの撮影が禁止されているケースもある。
ヨーロッパが常に撮影しやすい環境というわけではないのだ。
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