「文春の有料会員にはなりません」 高市首相答弁と「インテリジェンス強化」との矛盾
文春に金を払いたくないという首相
6月4日の高市早苗首相の国会答弁はいくつかの点で批判される余地があるものと言えそうだ。
この日、衆議院・予算委員会で中道改革連合の伊佐進一衆院議員が取り上げたのは、「週刊文春」と文春オンラインが連続して追及している高市陣営が対立候補などの誹謗中傷工作をしたのではないか、という疑惑。今回の新味は、高市首相の秘書と工作を請け負った側の「音声」そのものがオンラインで公開された点である。
これについて質問された高市首相の答弁の要点は以下の通りである。
・自分に対してイメージ操作をしてきたところの有料会員になろうとは思わない。
・有料会員にならないと聞けないのだから確認はしていない。
嫌いなメディアに金を払いたくない、という感情を持つのは人としては自然なことかもしれない。耳の痛い話こそきちんと聞くべきだ、というのは正論だろうが、高市首相個人の思想信条がそういうものでないのならば仕方あるまい。それを裸の王様になぞらえる人がいるのも首相は織り込み済みだろう。
しかしそもそもの前提として、伊佐議員は別に高市首相に対して文春の会員になれとは一言も言っていない。文春を儲けさせるのが嫌ならば、周辺で会員を探してみるという手もあるはず(なお、首相はこの日、午後には文字起こしを目に通したうえで、問題なしとの見解を示している)。
仮に周囲に一人も会員がおらず、確認すらできていないのならば、それこそ問題だろう。野党はおろか与党からも厳しい批判が出る可能性は否定できまい。何せ高市内閣が重要政策として掲げてきたのは「インテリジェンス(情報活動)機能の強化」。そのための国家情報会議設置法案も通したばかりなのだ。
「週刊誌記事はインテリジェンスの対象にならない、そんなもの真に受けるな」というのはインテリジェンスについての基礎知識に欠けた見方と言えるだろう。ともすればジェームズ・ボンドやジャック・ライアンのようなヒーローの活動と結びつけられがちだが、本来のインテリジェンスは、公開情報の地道な分析に始まるというのは常識だ。
ジャーナリスト・烏賀陽弘道氏の著書『フェイクニュースの見分け方』第1章のタイトルは「インテリジェンスが必要だ」。その冒頭で、インテリジェンスの本質をわかりやすく解説している個所を抜粋してみよう。
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公開情報に当たる重要性
1993年の夏に3ヶ月間、アメリカ連邦議会調査局(Congressional Research Service)でインターンとして働いたことがある。その時、私のスーパーバイザーだったロバート・サッター氏の前職はCIAの中国担当分析官だった。そのサッター氏が私に教えてくれた大事な教訓がある。
「CIAが扱っている中国情報の95%は公開情報だ」
「公開情報」というのは新聞やテレビなどマスコミに出ている話、政府や高官の公式見解・コメント、プレスリリース、政府系研究機関の出した論文、果ては電話帳や名簿、人名録など「誰にでも手に入る情報」である。CIAというと非合法の情報収集活動をしているスパイ機関のように見えるが、さにあらずというのが氏の話の趣旨だった。
「だって、鄧小平が公用車の中で話した秘密の会話の盗聴テープが手に入ったとしても、公開情報でその会話の背景や意味がわからなければ、何の意味もないじゃないか」
サッター氏はそう言った。
CIA分析官は、来る日も来る日もそうした公開情報を地道に集めて積み上げている。新聞やニュースレターの山と毎日格闘している。そして「5%の非公開情報」が入って来た時、それを分析して、価値を判断する。それが何を指し示しているのか予測する。それを議員や国務省・国防総省、時にはホワイトハウスのスタッフに届ける。それがCIA分析官の仕事だ。それを「インテリジェンス(intelligence)=情報の意味や価値を分析すること」という。サッター氏はそう教えてくれた。ちなみにCIAはCentral Intelligence Agencyの略である。
記者になって7年目の私も、氏の言うことはよく理解できた。記者の取材の第一歩も、公開情報を読んで頭に入れることから始まる。公開情報を入り口に、人に会って話を聞いて情報を重ねていくことで、情報分析の精度が上がる。より事実に近い情報になる。5%の非公開情報(記者の仕事でいうと特ダネ)に備える。情報を扱う仕事では、記者もCIA分析官も実務にそれほど大差はない。
こういう「公開情報」を情報源にして相手を分析していく活動を「オシント=OSINT(Open Source Intelligence)」という。それに対して人間を情報源にして聞き出し、分析する活動を「ヒューミント=HUMINT(Human Source Intelligence)」という。ほかには通信の傍受や電話・メールの盗聴など「シギント=SIGINT(Signals Intelligence)」もある。
質のいい報告=事実により近い情報分析は、公開情報の研究が綿密に詰めてあって、そこに人間からの情報がブレンドされている。公開情報は骨格、人間情報は筋肉のようなところがあって、どちらを欠いても「身体」としては成立しない。総体として「現実」に近づかない。つまり情報を「事実」に近づけるには、オシントとヒューミントが有機的に組み合わさっていないといけない。
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烏賀陽氏も述べている通り、公開情報にはマスコミ報道も当然含まれる。すべての雑誌やサービスをチェックするのは現実的ではないが、メジャーなものならば関係機関は当然定期的に観察しているはずだ。
仮に高市首相が言うように一連の報道が根も葉もない話ならば、その背景を知る必要があるかもしれない。その意味でもとりあえず音声が本物かどうか、政府はインテリジェンス担当者らに確認させ、レポートをあげさせてみてもいいのではないか。










