「殺し屋の目だった」香取慎吾が戦慄した“超有名俳優”の名前 三谷幸喜が明かす映画制作秘話

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 近年、元気がないと言われるテレビですが、その面白さに再注目してほしいと声をあげているのが脚本家の三谷幸喜さんと時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さん。1960年代初めに生まれた2人は、テレビ黄金時代の熱波を全身に浴びて育ち、仕事にまでしてしまった「元祖テレビっ子」。マニアックな番組の思い出や俳優の小ネタをショートメールで頻繁にやり取りし、その知識を共有する間柄です。

 2人が偏愛する番組と実人生への影響を熱く語り合った対談集『もうひとつ、いいですか?』(新潮社)では、大河ドラマ、海外ドラマ、刑事探偵ドラマ、ホームドラマ、追悼・西田敏行さん、1973年の6つのテーマに沿って、お宝エピソードを惜しみなく披露。

 今回は「追悼・西田敏行さん編」から、西田さんが愛した即興演技「アドリブ」の真の凄さと価値について語られたパートをご紹介します。(以下、同書より抜粋・再構成)。

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三谷 僕の映画『THE有頂天ホテル』での西田さんの役名は「徳川膳武(ぜんぶ)」。この頃の西田さんがすでに、家康やら吉宗やら、徳川将軍を沢山演じていらっしゃるイメージが強かったので「ぜんぶ」と名付けました。

ペリー 本番を前にして「死にたい」「もうだめだ」と激しく落ち込む大物演歌歌手なんですよね。それがミュージシャン志望のベルボーイ(香取慎吾)に励まされて気持ちを立て直したら、熱が冷めたみたいにサッと引っ込んでいく。

三谷 あの西田さんは怖かった。ベルボーイの作った歌を褒め、さんざん一緒に歌って盛り上がったあとで、「歌うのは趣味にしておけ。きみ程度の歌手はごまんといる。俺が生きているのはそういう世界だ」と冷たく言い放つ。あとで香取さんから聞いたんですが、彼もあのシーンの西田さんの印象が強烈だったみたいで。リハーサルの時に集中している西田さんを見て、「あの人の目は殺し屋の目だ」と思ったそうです。ちなみに香取さんが出会った殺し屋の目をした俳優はもう一人いて、田中邦衛さんだそうです。

ペリー さっきまで弱々しかったのに、突然、札を返すように冷酷な顔を露わにするんだから。切り替えの鋭さにゾクゾクしました。

三谷 しかもそのあと「おれ、ちょっとオイル(マッサージ)のほう入っちゃうんで、ごめんね」と言って、パンツを下げてお尻をぴゅっと出すんです。「オイルのほう入っちゃうんで」というのは西田さんのアドリブで、台本では「マッサージだから」だった。「オイルのほう」というのがまず面白いし、そのあとにお尻を出すのも、本番でいきなりやられたんですよ。西田さんはご自分のお尻のおかしさをよく分かっていた。

ペリー 計画的「ぴゅっ」だったんだ。さすがアドリブの見事さで有名な西田さん。

三谷 あの映画は海外で上映されると、ここが一番ウケるんですよ。西田さんがお尻を出した瞬間、外国の観客は大爆笑。脚本家としては、お尻に負けた気がして悔しかったです。そういえば、亡くなった後、TBS系『情報7daysニュースキャスター』で、安住紳一郎さんと西田さんがやりとりする過去の映像を観たんですが、西田さんが「安住ちゃん」とか「紳一郎」とか親し気に呼びかけて、「僕はきみを養子にしたいと昔から思っていたんだ」なんて言うんですよ。絶対にそんなはずないのに(笑)。あまりに適当で爆笑しました。

ペリー 西田さんのアドリブは、テストの段階からやるんですか。

三谷 テストからです。ただ、テストの日にやったアドリブを、本番でやるとも限らない。テストで試されるんですよね、どれが一番面白いか。

ペリー 本番で突然「ぴゅっ」と出したりもしますしね(笑)。

三谷 確かに西田さんのアドリブは面白いし、追悼番組でも俳優さんたちが口々に「アドリブが凄かった」って言ってましたけど……でも、僕の知る限り、西田さんがアドリブをおっしゃるのはホンが面白くない時のような気がする。だから、脚本家としては、西田さんに叱咤激励されているような気がしてならなかった。僕の場合は初めて一緒にやったドラマの時は、西田さんはほぼアドリブなし。そして映画『THE有頂天ホテル』はアドリブ全開。次の『ザ・マジックアワー』の時は、あえてアドリブ禁止令を出しました。「誰もが恐れる港町の大ボスの役ですから、作品全体の重石(おもし)になるよう、あまり軽く演(や)らないようにお願いします」って。もう僕としては、西田さんが思いつきそうなアドリブは最初から全部ホンに書いてやろうとさえ思った。

ペリー 大物俳優の技を封じる監督。何か真剣勝負のようですね。

三谷 「アドリブなしっていうのは僕に死ねと言っているのと同じことだ」と西田さんからは抗議されました、もちろんジョークですけど。それでも今回だけはどうか、とお願いしました。でも最後の撮影の日だけは、僕からのプレゼントとして、1カ所だけアドリブ入れていいですよと言ったら、西田さん、野に放たれた獣のようにアドリブ連発でした。

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※本記事は、『もうひとつ、いいですか?』(新潮社)の一部を抜粋、再編集したものです。

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