三谷幸喜「日本で一番の大河ファンである自信がある」 好きすぎて“草刈正雄の顔を…” 筋金入り大河少年の仰天エピソード

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 近年、元気がないと言われるテレビですが、その面白さに再注目してほしいと声をあげているのが脚本家の三谷幸喜さんと時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さん。1960年代初めに生まれた2人は、テレビ黄金時代の熱波を全身に浴びて育ち、仕事にまでしてしまった「元祖テレビっ子」。マニアックな番組の思い出や俳優の小ネタをショートメールで頻繁にやり取りし、その知識を共有する間柄です。

 2人が偏愛する番組と実人生への影響を熱く語り合った対談集『もうひとつ、いいですか?』(新潮社)では、大河ドラマ、海外ドラマ、刑事探偵ドラマ、ホームドラマ、追悼・西田敏行さん、1973年の6つのテーマに沿って、お宝エピソードを惜しみなく披露。

 今回は「大河ドラマ編」から初めての大河ドラマ体験を語ったパートをお届けします。(以下、同書より抜粋・再構成)。

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ペリー 三谷さんは1961年生まれ、私は1962年生まれで1歳違いの同年代。他の子がアイドルに夢中になっていたキラキラの10代を大河ドラマに捧げた珍しい二人です。三谷さんのおうちでは大河を家族そろってご覧になっていたんですか。

三谷 そうですね。おじが歴史好きだったので、横でいろいろ解説をしてくれたりして。

ペリー うちは日曜夜8時は欽ちゃんの『オールスター家族対抗歌合戦』を観ると決まっていた大河度ゼロの家で、私だけが壊れかけたモノクロテレビでこっそり大河を観ていました。だからとっくにカラー時代になっているのに、大河の印象がモノクロなんです……。

三谷 今日はこんなものを持ってきましたよ。

ペリー すごい、『風と雲と虹と』の公式ガイドブック! 今はひとつのドラマにつき3冊出ることもありますが、当時は年に1冊きりでしたね。

三谷 毎年買っていたんですが、今、手元に残っているのはこれだけなんですよ。年末に翌年の大河のガイドブックを買っては読みふけり、これはどんな話になるんだろうとずっと夢見ている、そんな10代でしたね。

ペリー 夢見てましたか……。でも、他のは紛失なさったんですか。引っ越しかなにかで。

三谷 分からないんです。実家にあったはずなんですが、見つからなくて。

ペリー 実家ってブラックホールですよね。私も実家に置いてあった時代劇関連の新聞の切り抜きをごっそり「紛失」しましたから。(編集者に)このガイドブック、表紙を撮っておいていただけますか。

編集部 この表紙、草刈正雄さんの輪郭に沿ってなぞった跡がある……。

三谷 あ、分かりましたか。絵を描くのが好きなので、好きな人は描きたくなっちゃう。この時も上に紙を置いて顔を写し取ったんです。

ペリー 『風雲(かぜくも)』で草刈さんの演じた鹿島玄明(かしまはるあき)は、架空の人物なのに人気が出ちゃってどんどん出番が増えていった。大河ドラマあるあるですよね。

三谷 あまりの人気に最終回まで出てましたね。

ペリー しかし絵まで描かれるとは、三谷さんは大河ドラマへの愛をこんなふうに表現なさるんですね。

三谷 僕、多分、日本で一番の大河ファンである自信があるな。観るだけじゃなく、脚本を書いていますし、二度も出演していますし。

ペリー 観る、書く、出る、そして描く(笑)。

三谷 われながら、こんなに好きな人はいないだろうと思う。

おばあちゃんお手製の陣羽織で剣道に通った

ペリー 三谷さんが大河視聴デビューした作品は『国盗り物語』だとか。

三谷 正確に言うと初めて観たのは『新・平家物語』です。ただその時は、大河ドラマというものがあるんだなと認識した程度で、一年通して観るようになったのは翌年の『国盗り物語』から。12歳の時でした。

ペリー 私が一年通して観た最初の大河は、『国盗り』の翌年に放送された『勝海舟』でした。やっぱり12歳の時。12歳って大河適齢期なのかもしれませんね。三谷少年にとって『国盗り』はどこが魅力でしたか。

三谷 色々あるんですが、まず林隆三さんの演じる雑賀孫市(さいかまごいち)に、心の底から憧れました。

ペリー 火縄銃の名手である雑賀衆の頭目ですね。

三谷 そうです。僕はその頃、町の剣道の道場に通っていまして。でも、めちゃくちゃ下手で、結局、段位は取れずに六級で終わったんですけど。

ペリー 六級とはどれくらいの実力ですか?

三谷 最下位ランクじゃないかな。習い始めたばかりの幼稚園児と同じ。道場に通い続けて六級で終わる人って、なかなかいませんよ(笑)。それで当時、一緒に暮らしていた裁縫の上手な祖母に、「雑賀孫市の格好をして道場に行きたいから陣羽織を作ってほしい」と頼みまして。

ペリー え、剣道の道場に?

三谷 孫市と同じ八咫烏(やたがらす)の紋を入れた赤い陣羽織を作ってもらって、それを着て道場に通いましたね。

ペリー 一応聞きますが、周囲の人たちは、どう受け止め……。

三谷 呆れ返ってたと思います。

ペリー 三谷さん、一人っ子でしたね。おばあちゃんは可愛い孫のために……。

三谷 言われるがままにいろんなものを作ってくれました。あ、八咫烏紋入りののぼり旗もお願いした。

ペリー どんだけ孫市が好きなんですか! いや、気持ちはわかりますよ。林隆三さん、カッコよかったですよね。

三谷 カッコいいですよ、林さんは。孫市もですが、『黄金の日日』でやった今井宗薫(そうくん)もすごく良かった。丹波哲郎さん演じる今井宗久(そうきゅう)の息子で、大商人の父に反発するんですよね。

ペリー 大河じゃありませんが、平賀源内が様々な事件を解決するNHKの傑作ドラマ『天下御免』の、橋の下で暮らす浪人役も素敵でした。

三谷 小野右京之介ね。林さんは、僕のヒーローなんです。ちょっとアナーキーな感じの役がよく似合う。

ペリー 「必殺」シリーズ『必殺必中仕事屋稼業』に若い殺し屋の役で出ていらして、私はそれも大好きだったんですよ。なのに最終回で死んじゃって、中1の私は、「世の中にこんな悲しいことがあるのか。学校に行ってる場合じゃない!」と号泣して布団から出ず学校を休みましたね。林さんが70歳の若さで亡くなった時は2日間黒い服で過ごしました……。

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※本記事は、『もうひとつ、いいですか?』(新潮社)の一部を抜粋、再編集したものです。

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