“コミケの女帝”と呼ばれたイラストレーター「七瀬葵」が語り明かす…90年代コミックマーケット「伝説」と「騒動」の真相

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誰とも被らない絵柄を研究

――いきなり2000部を搬入して完売したんですね。壁からシャッター前(注:同人誌を買い求める人の列が長くなり、建物の外に流す必要があるため、シャッターの前にスペースを配置されるサークル)にステップアップしたのはいつ頃で、何部ほど搬入していたのですか。

七瀬:コミケがビッグサイトに移る前、晴海(注:東京国際見本市会場のこと)の時代には、既に1万部を超える部数は刷っていましたね。そして、96年に会場がビッグサイトに移動した最初のタイミングでシャッター前になりました。

――そして、99年の夏コミでは七瀬先生のサークルで大変な騒動が起きています。6時間並んでも新刊が買えない人が続出し、コミケ終了まで列を捌ききることができなかったとか。私の知り合いも並んだけれど買えなかったと言っていますし、会場は大混乱に陥ったそうですね。

七瀬:騒動が起こった原因は、サークルカットに「今回でファイナル(注:最後の参加、という意味)」と書いてしまったためだと思います。しかも、頒布物も種類が多かったため、受け渡しに時間がかかり、終会の時点でまだ、(ビッグサイトの)東館を一周半、列が残っている状態でした。

 私は頒布に必死で、まさかそんなことになっているとは知らず、状況を把握できていませんでした。次の日、準備会の計らいでビッグサイトのガレリアで頒布を行いましたが、前日一日を無駄にした方がいらっしゃったことについては、本当に申し訳なく思いました。

――様々な騒動も起きていますが、それほど高い七瀬先生の人気を支えた要因の一つが、美しく個性的な絵柄です。

七瀬:ある大手サークルが出した同人誌に、“七瀬葵という人がAさん(注:当時人気のあった同人誌作家)の絵柄をパクっている”と書かれてしまったんです。確かに私はAさんの絵が好きでしたし、影響を受けていたと思います。ただ、私はこの一言にすごくショックを受けて、“誰ともかぶらない絵を描かなきゃいけない”と考えました。

 そこで、コミケカタログのサークルカットをすべてチェックし、徹底的に分析して作ったのが当時の絵柄です。特にこだわったのは目の描き方ですね。目全体を小さめに描き、瞳は黒目がちにするんだけれど、端に光をちょっと入れてあげる。目の下やまつ毛がある部分は直線的かつ太めに描く、というものです。

――そうした七瀬先生の研究の結果、あの絵柄が生まれたのですね。

七瀬:そうそう。かぶらないように、叩かれないようにね(笑)。当時のコミケでは、高橋留美子先生の「らんま1/2」のような、目が大きくて、ハイライトの部分が大きい絵柄が主流でした。そして、顔の輪郭は斜めを向いているのに、パーツを平らに描く絵が多かったのですが、私は顔が立体的に見えるように試行錯誤しながら描いていました。

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